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専門性の深さと統合力を併せ持つ人材育成が必要

もう1つ、名ばかりCxOがまかり通ってしまう理由として考えられるのは、「専門的かつ統合的な視点を持つ人材」を育成する習慣がなく、適材がいないことだ。日本企業には、1つの専門性を極めた人間がいる一方、あらゆる分野を一通り知っている何でも屋も多数いる。ところが、専門的能力を持ちながら、統合的な視点から物事を考え、意思決定ができる人材(T型人材で、かつ多領域を統合的に束ねることのできる人材)が圧倒的に不足しているのだ。CxOには、まさしくそうした能力が必要なのにもかかわらずである。

以前、この連載で”ずらずら病”(関連記事参照)について書いたことがあるが、大きな案件について顧客に提案する際に、社内の関係者全員を同行させるといったことが起こりうる。一応、案件のリーダーはいるのだが、その人は顧客のニーズに合わせて、他部門を統合的にコントロールする能力も権限も持っていないので、全部門の担当者を顧客との会議に出席させ、その場で調整と確認を取ろうとするのだ。

また、全社のリスク分析をするために、各部門代表に全社でのリスクを重要なものから5個〜10個挙げるようお願いすると、ほとんどの人は自部門のリスクしか挙げない。他部署のことを本当に知らないか、知っていても言ってはいけないという自主規制が働くのである。

ブランドマネジャー、ソリューションアーキテクトといった人たちも個別領域の専門性と全体統合的な視点を併せ持つ職種であり、CxOなどはまさにその最たるものであろう。こういった人は放っておいて育つものではなく、適性のある人材を早い段階で発掘し、専門領域のスキルを向上させつつも、他方で経営的視点を養うトレーニングと実践の機会を与える必要がある。そして、そのような人材がたくさん生まれてくるようになると、初めてCxO候補者のプールに厚みがでてくるだろう。要は肩書を変えるだけではなく、その育成方法までさかのぼって変える必要があるということだ。

最近では、専門能力のある人をいったんは関係会社や海外の現地法人のトップなどに就け、その後、本社に呼び戻して経営層に入れるといった事例も増えてきているし、「専門的かつ統合的な意思決定能力」の重要性が理解されていないわけではないだろう。せっかくCxOという名前を付けることを選択したのであれば、それを機に、経営チームの在り方や権限、そして候補人材の発掘および育成方法まで大きく変えていきたいものである。 (プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山進、構成/ライター 奥田由意)

秋山進 プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役

リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業からベンチャー企業、外資、財団法人など様々な団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。京都大学卒。国際大学GLOCOM客員研究員。麹町アカデミア学頭。著書に『「一体感」が会社を潰す』『それでも不祥事は起こる』『転職後、最初の1年にやるべきこと』『社長!それは「法律」問題です』『インディペンデント・コントラクター』『愛社精神ってなに?』などがある。


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ダイヤモンド・オンライン

[ダイヤモンド・オンラインの記事を再構成]
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