
伝統の乗り味を継承したシトロエンブランド初のSUV
何か近頃のクルマは乗り心地がパサついているなぁ、と感じてしまう貴方は、一理あり。最近は輸入車に限らずハイエンドな新車には、俗に「アダプティブシャシーコントロール」と呼ばれる機能がよく備わっている。これはたいてい、足回りの固さや柔らかさを任意の数段階の中からドライバーに選ばせるもので、普段はノーマルかコンフォートで、高速道路でコーナーの連続する区間や山道ではスポーツといった具合だが、いつも走行状況に応じて即座に正しい設定を選べるとは限らない。
ふたつみっつ段差を越えたりコーナーを抜けてみて、まるで見当違いのフィールだったり帯に短し襷に長しを感じた後、これで仕方ないかと、ドライバーがいい聞かせるしかない乗り心地やハンドリングで、多機能なようで逆に失望させられる、そんな出来ばえのものも少なくないのだ。

仕組みは基本的に電磁制御のエアサスペンションで、バルブを介してエアの充填量を増減しているのだが、そんなパサパサした乗り味に飽きたのなら、斬新なまでにねっとり、濃厚リキッド感に満ちた一台がある。それが今夏より日本に上陸する、シトロエンC5エアクロスだ。
シトロエンは元より乗り心地に独特の哲学を貫くメーカーだが、C5エアクロスでは「プログレッシブ・ハイドローリック・コンプレッション(PHC)」という機構を採用してきた。コイルスプリング&ダンパーによる普通のサスペンション構成だが、早い話がダンパーの筒の中にもうひとつダンパーを仕込んでいる。ダンパー・イン・ダンパー自体は今や珍しくないが、C5エアクロスが画期的なのは(フロント側のみだが)伸び・縮みの両方向にダンパー・イン・ダンパーを採用した点にある。
要は油圧によるクッションが二段構えに効いてくるので、ストロークが深くなるほど、もしくは伸び切りに近くなるほど、ググっと二次曲線的に追い込むように粘りが発揮される。いわば部品点数も重さも嵩む複雑なエアサスとは逆に、油圧ひとつの固定コンフィギュレーションで快適性からスポーツ走行までカバーする、という考え方だ。
