しかも、事業として一定の規模に育てて継続させるには、社内に閉じこもっていてはそのノウハウを得るのも容易ではない。「大手ではイノベーションが起こりにくく、日本全体で新陳代謝が進んでいない」と光村は話す。
社内起業家(イントレプレナー)の育成を通じ、新規事業をどんどん立ち上げる空気を大手の中で醸成させたい。そのために大手とベンチャーの懸け橋となり、オープンイノベーションを広めていきたい──。そんな光村の思いが、三井不動産、大手広告代理店の電通、世界四大会計事務所の一つであるアーンスト・アンド・ヤングの日本ファーム、EY Japanの3社を動かし、「BASE Q」が誕生した。
「BASE Q」には法人契約を結んだ企業から、新規事業を担う社員として選出された人が参加する。その中で「イノベーション・ビルディングプログラム」に取り組んでもらう。これは、(1)伴走型ビジネスデベロッパー、(2)Qスクール、(3)Qラウンジ/コミュニティ、(4)イベントで構成される。
(1)は、コンサルティングスタッフを常駐させ、伴走者としてイノベーション創出に必要な戦略整理やマッチング、協業・共創までをサポートする。(2)では、社員に不足しがちなビジネスの基礎知識やベンチャーの性質、実務的なスキルなどを専門の講師陣から学べる。
また、(3)日常的に会員同士や連携するベンチャーなどの交流を図れる場があり、(4)を通じて情報収集もできる。
光村が何よりこだわっているのが「事業化」だ。オープンイノベーションに取り組むサービスは他社にもあるが、「マッチングそのものが目的化してしまっているケースが多い」と光村は感じているからだ。自身もイントレプレナーとして今、「マッチングだけなら難しくない。むしろ社内の抵抗を乗り越えて、大手の中で認められる水準に事業化する方がよほど難しい」ことが身に染みている。
大手とベンチャーをつなぐ両輪がそろった
さかのぼること2013年、三井不動産初の本格的なベンチャー支援オフィス「LIAISON-STAGE霞が関」がオープン。このころから同社は本格的にベンチャーと接点ができた。そして15年、ベンチャー共創事業部の誕生と時を同じくして、同社の新規事業創出を目的にベンチャーとの関係を構築するため、「31VENTURES」を開始。昨年5月には、独立系ベンチャーキャピタル大手のグローバル・ブレインと協力し、総額300億円のベンチャー投資事業を開始した。
このように、大手とベンチャーをつなぐ土壌はすでに整っていた。そこに、光村の発案による大手企業向けの「BASE Q」と、スタートアップ向けの「31VENTURES」がそろったことで、日本のオープンイノベーションエコシステムを支えたいという同社の希望を実現する両輪が完成した。
1979年生まれで今年、不惑(40歳)を迎える光村の目指すところを言い表すなら「懸け橋」だ。
日本経済を築いてきたのは、松下幸之助や本田宗一郎といった、新しいツールで世界をつくってきたようなヒーローだけではない。名もなき人々の地道な努力を決して見逃してはならない。一方で、海外のように、米アップルが携帯電話の世界を変え、米Uberがタクシー業界を震撼させたようなパワーが、今の日本には不足している。
「自分がヒーローとそうではない人のつなぎ役となり、日本経済を盛り上げていきたい」。光村はそんな熱い思いを、心に秘めている。(敬称略)
(ダイヤモンド編集部委嘱記者 大根田康介)
【開発メモ】BASE Q
「LIAISON-STAGE霞が関」でも統括担当だった光村が発案した。大手企業で新規事業を担う社員が参加する「イノベーション・ビルディングプログラム」を軸に、オープンイノベーションを広める空間が、東京ミッドタウン日比谷に誕生。スタートアップ向けの「31VENTURES」と両輪で、日本経済の新陳代謝を図る。