
バーゼル取材 DAY5
赤という色は人を元気にしてくれる
今年のバーゼルワールドに、ウブロの真紅のセラミック・ケースを持つ「ビッグ・バン ウニコ レッドマジック」というニューモデルが登場し、そのセラミックの赤の鮮やかさに驚いた。
赤いセラミックを実現するのはとても難しかったと聞き、昔、ガラスの歴史を調べていたときに、ガラスを赤く発色させるのが困難だった、という話を読んだことを思い出した。
赤いガラスを作るために、ガラスに混ぜるのは高価な材料の黄金だったといい、金は容易に溶けないので、濃硝酸と濃塩酸による王水を用いて溶かし、ガラスの材料と混ぜて発色させたのだそうだ。
ウブロのこの真紅のセラミックは、高い圧力をかけると発熱するメカニズムを応用して実現したという。セラミックの材料とそこに加えるジルコニアとの親和性が難しく、これまで黒ずんだ赤しかできなかったのだが、高加圧することによって今回のような、鮮やかな真紅のセラミックが出来上がったのだそうだ。まるで現代の錬金術師のような話。
赤という色は人を元気にしてくれる。宝石の中でも赤いルビーは人気が高い。
特にタイとカンボジアの国境近くの、モゴック産のルビーには、ピジョン・ブラッドと呼ばれる美しい赤色のものがあり珍重されるのだ。
この真紅のセラミック・ケースの時計を身につけるのは、なかなかのファッションセンスが要求されるだろうが、それが克服できたら素敵だろうね。
この時計のほか、H.モーザーの美しいグリーンやブルーの文字盤の時計も、ピュアな感覚がよろしい。こちらは仕立ての良いスーツの袖口に、チラリと見えていたら、お洒落上級者の資格ありだろう。
Profile
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。バーゼル101年の歴史の3割を実際に取材してきたジャーナリストはそうはいない。
撮影/岸田克法 文/松山 猛