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カントリーシーンに見る英国貴族文化

若い読者はご存知ないかもしれないけど、’70年代後半から’80年代にかけてニューヨークファッションが注目を浴び、ラルフ ローレンやカルバン・クラインを筆頭に数々のニューヨークデザイナーズブランドが日本でも紹介された。アラン・フラッサーもその一人で、’83年のコティ賞(アメリカのファッション界で最も権威のある賞)を受賞したメンズウェアのデザイナーだ。彼がいう趣味の良い、スマートな装いとは、紳士服のエレガンスがその極地に達した1930年代のワードローブを基本としたもので、彼自身も学生の頃から父の影響で服はロンドンのサビルロウ仕立て。とりわけ「アンダーソン&シェパード」のドレープスーツが大のお気に入りだったというから筋金入りだ。

ボクが初めてアラン・フラッサーの名を耳にしたのは、オンワード樫山やリーガルコーポレーションとライセンス契約を結んだ’80年代あたまの頃だろうか。当時、駆け出しのイラストレーターだったボクは何度かフラッサー広告の絵を担当。クラシックな彼の服に合わせてローレンス・フェローズ風タッチの紳士を描いたものだ。

そんなこともあり、久しぶりにオリバー・ストーン監督の映画『ウォール街』(1987年。アメリカ)を観た。バブル期で沸くニューヨークのウォール街を舞台に投資家のマネーゲームを描いたこの映画で、主人公のゴードン・ゲッコー役を演じるマイケル・ダグラスの衣装を監修したのが何を隠そうアラン・フラッサー。

冷淡で強欲。一方で話術に長けてカリスマ性があるゲッコーにドレープスーツにクレリックシャツ、タイバー、サスペンダーなどの小物類が見事にマッチし、迫力ある人物像に一役買っている。この役でマイケル・ダグラスは第60回アカデミー主演男優賞を受賞。アラン・フラッサーの名は一躍有名になった。

ノームコアなんていうお金持ちがお金持ちに見えない装いをヨシとする時代に改めて観ると、笑っちゃうくらいバブリーな映画(携帯電話がまだ弁当箱くらいデカイ)だけど、富を得るにはまず身なりを整え、昇り調子になったら葉巻をプファ?。そしていい女をはべらせてウマイもんを喰らう。その先にたとえつまづきが待っていたとしても……。

サスペンダーは己を鼓舞する鞭であり、ツープリーツ、サイドアジャスト付きのベルトレスのワイドパンツは金融街という舞台のステージ衣装。これがスティーブ・ジョブスみたいなタートルネックセーターにデニム、スニーカーじゃバカになれないもの(だから正しいのだけど)。

ついでにこの映画の続編となる『ウォール・ストリート』(2010年。アメリカ)も観た。インサイダー取引と証券詐欺罪で8年の刑期を終えて出所後のゴードン・ゲッコーのお話だ。出所後しばらくは金融評論家として著書で食いつないでいたゲッコーだが、その後金融界に復帰。戦闘モードに入ったらまずは身なりからと、まずはロンドンでピークトラペルのスーツをビスポーク。そして靴は「4足もらう」と大人買い。そして葉巻をプファ?。ゴードン・ゲッコーの面目躍如だ。痛快。

やっぱいつの時代も男には舞台衣装が必要なのだ。2019年は景気が良くなりますように。


今月のシネマ

『ウォール街』(1987)
『ウォール・ストリート』(2010)


[MEN’S EX 2019年2月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)

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