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で、僭越ながらその授賞式を見てふと気になったのは、受賞者全員がビジネススーツを着用されていたことだ。いや、もちろん各界から選出された個性溢れる5名の受賞者の皆様に文句のつけようはないのだけれど、せっかくビジネス、イノベーション、アート&カルチャー、スポーツと4部門から選ぶのであれば、スーツもビジネススーツ一辺倒でなくてもいいはず。もっといろんなスーツスタイルが見たかった。今後、ご検討いただけるとありがたい。

スーツは、ビジネスバッグを持つべきスーツと手ぶらが似合うスーツの2つに分かれる。自由業である自分が選びたいスーツは後者だ。だからといって、デザイナーがいじくったカジュアルセットアップみたいなお遊びスーツは着たくない。各ディテールはビジネススーツ同様にベーシックであり、スタイルはクラシック。でもビジネススーツとはひと味違う、手ぶらで歩くのがサマになるスーツ。そんなスーツスタイルを常に模索しているのだけれど、オレにそのインスピレーションを与えてくれるのが、20世紀のトレンドセッターであり、世界一のダンサーであったフレッド・アステアだ。

彼のスーツスタイルはまさに手ぶらの世界最高峰! よく計算されて作られたスーツは、彼がどんな激しい動きをしても常にエレガント。まるでスポーツウェアのごとく軽快に着こなしていた。それがたとえ、ヘビーウエイトのグレーフランネルであってもだ。

映画『絹の靴下』(1957年アメリカ)でアメリカ人映画プロデューサーに扮するアステアは、6つボタン下1つ掛けのダブルのグレーフランネルスーツを軸に、グレーパンツを流用したジャケットスタイルやブレザースタイルを披露。この冬の手ぶらスーツスタイルの着こなしとして大いに参考になる。

本来ならアステア同様にサヴィルロウの「アンダーソン&シェパード」(確かにここのスーツを着てビジネスバッグを持ち歩く人を見たことがない)でグレーフランネルスーツを誂えたいところだが、懐と時間にそんな余裕がないオレとしては、手持ちのビジネス仕立てのフランネルスーツを使って、いかに手ぶらが似合う着こなしにするか、これに苦心するワケです。つまり、M.E.が毎月提案するデキるビジネスマンの真逆ね(笑)。だからといって遊び人とかちょいワルナントカに見えるのではハナシにならない。スマートにスーツを着こなしつつも職業不明。昼下がりのバーで上等な酒と葉巻が似合うスーツスタイル。それがオレの理想だ。

まずビジネス仕様かそうでないかの違いを手っ取り早く見せるのはVゾーンだ。白のワイドスプレッドのシャツにレジメンタルストライプや小紋、ペイズリー柄のネクタイは極力避ける。これで昼間からバーでは、サボリーマンに見えてしまうからだ。映画でアステアはフランネルスーツに白やブルーのボタンダウンシャツに無地のペールトーンのネクタイを合わせているが、ベージュやピンクなど明るい無地のネクタイは優しげでロマンチックな雰囲気を醸し出し、手ぶらスーツスタイルと相性が良い。その際の足元は、同じペールトーンの靴下に茶のスエード靴で決まり。これならたとえビジネス仕様のフランネルスーツであっても真っすぐ会社に向かうとは誰も思うまい。えっ、スーツ オブ ザイヤー失格だって!? そんなぁ?。

カントリーシーンに見る英国貴族文化

今月のシネマ

『絹の靴下』(1957)



[MEN’S EX 2019年1月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)

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