大人の言い訳は、相手への誠意でありやさしさであり愛です。何かとややこしくてままならない大人の日々ですが、適切な言い訳を繰り出して、自分を守りつつ周囲のストレスをできるだけ少なくしてしまいましょう。
講師
石原 壮一郎さん
1963年三重県生まれ。大人の美しさと可能性を追求するコラムニスト。1993年に『大人養成講座』でデビュー以来、日本の大人シーンを牽引している。近著に『本当に必要とされる最強マナー』『9割の会社はバカ』など。
大きな仕事が自社都合で流れた
きっちりお詫びしつつ、控え目に悔しがることで味方認定を目論見たい
今回は「古い付き合いの会社にがっつり協力を頼んでいた仕事が、自社の方針が変更になって流れた」という設定です。もしかしたら「どうして言い訳が必要なの? なくなったと言えば済むと思うけど」と、ピンとこない人もいるかもしれません。
個人的な経験から言わせていただけば、発注側の意識なんてそんなもんです。しかし、頼まれたほうは、その仕事をするために予定を空けておかなければなりません。準備の費用がかかっていたり、別の仕事を断わったりしていることもあるでしょう。「なくなったから」と言われたら、すべては水の泡。プラマイゼロではなく、実質的には大損です。
自分が発注側の担当者である場合、いくら申し訳なく思ったとしても、会社の決定ですからどうしようもありません。それだけに、言い訳が大きな意味を持ちます。ここでの言い訳の目的は、相手の怒りを少しでもしずめることと、自分の信用を保つこと。
「いやあ、上が急に方針を変えちゃって。俺はやろうって言ったんだけど」と、軽い調子で上のせいにして自分だけいい子になろうとするのも、「今度いい仕事まわすから」とアテにならない空手形でごまかそうとするのも、かなり最悪。実際はそういうケースがほとんどですが、あなたの信用も会社の信用も地に落ちます。
まずは、振り絞るような声で「いちばんやってはいけないことだというのは重々承知しているんですが」と、事の重大さを自覚していることを示しつつ、残念な決定になったことを伝えます。
その上で「御社にも多大なご迷惑をおかけしてしまいました。何ともお詫びのしようが……」ときっちり頭を下げた上で、ものすごく悔しそうな様子で、こぶしを握り締めてこう言いましょう。
「私にもう少し力があれば……」
それ以上余計なことを言う必要はありません。相手は腹は立てつつも、「ま、この人のせいじゃないしな」と納得し、味方認定をしてくれるはず。実際以上に「この人は一生懸命に頑張ってくれたに違いない」と勘違いしてくれる可能性も、大いにあります。
言い訳の極意
あえて多くを語らないことで、 相手の怒りをしずめつつ 信頼を得てしまう——。 言い訳にしかできない妙技が、 ここにある。
[MEN’S EX 2018年11月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)