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自分のブランドを持ちたいと気持ちが動いた

「はじめは自分のブランドを持つことはありませんでした。でも、トニー(・ガジアーノさん)が成長していくのを見て、いつのころからか『自分でも』とチャレンジ精神が芽生え始めたのです。ひとつ頭にあったのは、独立(=ブランド設立)したいからするのではないということ」。

川口さんは技術があるからといって、ビスポークを頼まれてただ作ることが独立ではないと考えていた。自分の思い描く理想の靴を作りたいとビジョンがあってこその独立なのだ。「トニー(・ガジアーノさん)のスタイルは、非常にセンスがいいと思っていました。自分はそれとは違う独自のものを作りたいと思った」と語る川口さん。自分の理想をイメージできるようになった彼は、ついに2011年にブランド設立を果たすことになる。

順調に成長を続けたマーキス

ブランド設立にあたり、まず住まいを福岡から東京に移した。ブランド名は高級感を認識してほしいとの思いから侯爵の意味を持つマーキスに。当初は知り合いの口コミばかりだったが、MEN’S EXの取材がきっかけで、お客さまは着実に増えていったそうだ。意外に思えるが接客はマーキス設立で初めて経験することだった。

「どんなシーンで履くのか? どんなテイストが好みなのか? そんな会話がなければ、相手の求める一足を作ることはできません。でも、最初は余裕がありませんでしたね」。

しかし、川口さんに会ったことのある人なら、誰もが温厚で真摯な人柄に魅力を感じたであろう。順風満帆のマーキスは2017年秋に銀座にサロンを構えるにいたる。これというのも高い技術のみならず、一人一人の靴作りに丁寧に向き合う川口さんの姿勢に多くの人が共感した証ではないか。

マーキス代表 川口昭司さん
木型を専用の道具で固定し、削る。繊細な感覚が要求される工程だ。


靴の美しさを見る目が大切

現在、3人の弟子を抱える川口さんだが、弟子には惜しげもなくすべての技術を教えている。技術の一方で、川口さんが靴づくりの中で大切に思っていることは美しさを見抜く目だという。「優れた職人は手を動かすのが上手なだけでなく、美しいものを見つける目を持った人が多い。靴はこれまでの歴史の中で、ある程度完成されていると思います。しかし、なぜ美しく見えるのかを常に考えています。そこをないがしろにして前に進むことはできません」。

川口さんに靴の美しさのポイントを尋ねていると、独自の視点に気付いた。英国にはいろいろな靴があるが、どんな一足にも優れたところはあるというのが彼の持論だ。「靴の作りを見る際、粗探しをするよりも、よさを見抜いて吸収することが大切です」との一言に、川口さんの職人としての本質を見た気がした。

「(ビスポーク靴は)たとえ同じ木型を使って作っても全体を見れば、誰が作ったかが分かります。今になればそこが大切だったと気付きました。お客様がなぜうちの靴を選んでくださるのか? きっと醸し出す個性があって、マーキスだけの雰囲気が伝わっているのでしょう。私のお客さまはディテールの作りよりも、ポンと置いたときに美しいか、自分の装いに合うかを見る方が多いのです」。

「一日一日、自分がうまくなっている気がします」。この一言から、習得した高度な技術に甘んじることなく、美しい一足を追い求める謙虚な姿勢が感じられた。地方はもちろん、海外からも愛好家が訪れるマーキスだけに、アクセスの良い銀座への移転は多くのファンから好評。銀座という新天地を手に入れた川口さんのさらなる活躍が、今から楽しみだ。



川口さんの工房を拝見!(写真5枚)


DATA マーキス マーキス
住所:東京都中央区銀座1丁目19-3 銀座ユリカビル8F
TEL:03-6912-2013
http://marquess-bespoke.blogspot.jp/
完全予約制のため、来店希望の場合は事前に電話またはホームページに記載のメールアドレスから予約を入れること。
オーダー価格/シューズ31万8000円〜(仮履き一回)、シューツリー2万8000円。ともに税別。

撮影/西山 航 取材・文/川田剛史

工房の壁一面にぶら下げられた無数の木型。

工房の壁一面にぶら下げられた無数の木型。

木型を削る川口さん。

木型を削る川口さん。

釣り込みの作業中。「ポイントを設定どおりにフィットさせられるかに気を使います」

釣り込みの作業中。「ポイントを設定どおりにフィットさせられるかに気を使います」

仕事道具を拝見。左からウエストアイロン、エッジ(コバ用)アイロン、シートウィール(ヒールに飾りをつける)、ファッジウィール(コバの刻みを付ける)。

仕事道具を拝見。左からウエストアイロン、エッジ(コバ用)アイロン、シートウィール(ヒールに飾りをつける)、ファッジウィール(コバの刻みを付ける)。

作業机には様々な道具が機能的に収納されている。やすりはヒールや木型、トゥの革などを削るのに使う。骨は革の表面を滑らかにしたり、インソールの溝をキレイに見せたりと大活躍。ほかにはナイフや、ウェルトをフラットにするウェルトビーター、ヒールの付け根をキレイに削るランファイルなどが並ぶ。

作業机には様々な道具が機能的に収納されている。やすりはヒールや木型、トゥの革などを削るのに使う。骨は革の表面を滑らかにしたり、インソールの溝をキレイに見せたりと大活躍。ほかにはナイフや、ウェルトをフラットにするウェルトビーター、ヒールの付け根をキレイに削るランファイルなどが並ぶ。

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