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丁寧な指導で優秀な後継者が育ってきた

坂井さんの取材をしてすぐにわかったのは、優れた腕前に加え、非常に温厚な人柄の持ち主だということ。若いころは親切に指導を受けることがなかった坂井さんは、後継者の育成に非常に熱心だった。

「私は若い人に教えるときに、怒鳴りつけたりするようなことはしなかった」と坂井さんは語る。

育てた手縫い職人のなかで、一番優秀だった大塚製靴の石渡 孝さんには、「昔の職人みたいなことはしないで、一生懸命教え込んだ」とも。 その指導の結果、石渡さんは坂井さんと同じく日本メンズファッション協会からマイスターの称号を授与されるまでに成長した。

頼もしい後継者が育ったことは、坂井さんにとってはなにより喜ばしいことだ。また、坂井さんが育てたにも関わらず大塚製靴を去った後輩の職人もいるが、是非もう一度、大塚製靴に戻って欲しいと思っている。

シューマイスター 坂井栄治さん
「作ることが生きがい」との言葉が、坂井さんの職人人生がいかに満たされたものだったのかを物語る。



坂井さんを慕う顧客が大勢いる

さて、2012年に六本木ヒルズに移転したショップは2016年にフロアがメンズアイテム専門に改装を行なったのに合わせ、リニューアルオープン。それが現在のシューマニュファクチュアーズ[オーツカ]だ。

2002年に工場を飛び出て以来、15年間、ショップ内の工房で仕事を続けた坂井さん。人柄と技術にほれ込んだ愛好家たちが、彼と話をしたくてたくさん訪れている。「実は接客は苦手で」と恥ずかしそうに笑うけれど、口下手な坂井さんも、きっと内心では関心を寄せる人たちとの交流を楽しんでいるに違いない。坂井さんが引退を決めたときにフライヤーが製作され、そこには愛用者への挨拶と「ビスポーク最大2名、ハーフメジャー最大4名まで受け付ける」との受注の案内が書かれた。受付枠はたちどころに埋まり、その後も問い合わせが続いている状態だ。

引退後は家族との時間を大切にしたい

「お店は12月の終わりまで営業しますが、私は12月21日が最終出勤となります。定期券が21日で切れるので、そこに合わせたんです(笑)。退職後は妻を旅行に連れていってあげたいと思っています。定年後も職人として働いていたので、いままでは連れて行ってあげられなかったから」と楽しそうに話す坂井さん。その表情には優しい内面があふれ出ていた。



コラム:坂井さんの思い出写真館



DATA

シューマニュファクチュアーズ オーツカ

シューマニュファクチュアーズ[オーツカ]
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ ウエストウォーク4F
TEL:03-3497-1872
http://www.otsuka-shoe.com/shop/shop_info.html



撮影/久保田彩子 取材・文/川田剛史

なんと趣味はマラソン。この写真は2008年のもの。最近まで10kmの大会に出場されていたそうだ。

なんと趣味はマラソン。この写真は2008年のもの。最近まで10kmの大会に出場されていたそうだ。

新橋のショップに勤務していた時の一枚。

新橋のショップに勤務していた時の一枚。

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