大量生産で利益を上げる仕組みが、靴メーカー王道の経営である一方で、昨今、人気のある巧みな靴づくりを駆使したブランドは、いわば”量の呪縛”から逃れ、さらに品質を追求する。長年靴づくりを続けてきた名工場は、自社ブランドを立ち上げ、本物志向の道を選んだ。
今月のいい工場(ファクトリー)
山形 – 宮城興業
教えてくれる人
ファッションジャーナリスト
矢部克已さん
メンズファッション誌編集部を経て渡伊。本国の服飾文化を吸収して帰国。ピッティ・ウォモを欠かさずに取材。常に「ファッションの現場」が気になるいま、この連載に力を込める。
1960年代に英国名門、バーカー社と技術提携を結んだ、東北の「名靴」
“謹製誂靴”も打ち出し、靴づくりの本質に迫る
JR赤湯駅でタクシーに乗り、行き先を伝えると、「あの素晴らしい靴をつくるところですか。わしらには手が出んわ(笑)」。地元ではそんな評判である。約10分後、工場に着いた。
【歴史】
1941年に創業し、’52年に会社を設立した「宮城興業」。いまでは靴好きの間ではちょっと知られた巧みな靴のつくり手だ。現社長、高橋和義氏の祖父が創業者。宮城県石巻の海産物店の息子であった祖父は、酒や食料品、ゴム長靴の販売を経て、軍靴をつくる工場を起業。それが前身の「宮城工業」である。先の大戦を機に現在の山形に移転。社名を改めた。