トリッカーズの創業は1829年。これは、老舗の多い英国靴ブランドの中でもかなりの古参にあたる。そして創業から現在までの180年以上にもわたる期間、ずっと同じ一族が経営してきたということも大きな特色だ。
ブランドを創業したのは、ジョセフ・バールトップという人物。近代社会への転換期であった当時、高級紳士靴に特化した本格靴メーカーの経営で成功を収めた氏は、息子のウォルター・ジェームス・バールトップに事業を継承。ちなみに「トリッカーズ」というブランド名は、ウォルターの妻の旧姓から取ったもの。創業当初は「バールトップ」の名を掲げていたが、よりキャッチーな「トリッカー」の名で商業的な成功を、という目論見があったと言われている。
1925年にはジャーミンストリートにショップをオープン。1939年に同じジャーミンストリート沿いで移転したものの、当地の靴店の最古参として現在も営業を続けている。
一族5代にわたって継承される”伝統”という名の魂があった
その後、3代目のアーネストを経て現在は、会長である4代目のドンと、その息子でマネージングディレクターのニコラスによって運営されているトリッカーズ。ファクトリーはノーサンプトンのセント・マイケルス通りに位置し、約90人の職人が昔ながらの手作業を駆使した靴作りを行っている。
1900年代からドレスシューズ作りも続けているが、主流は、日本でもお馴染みのブローグシューズ。とりわけ、堅牢なダブルソールによるカントリーシューズは世界的な定番として認知されている。狩猟をはじめとするカントリーサイドでの使用からタウンユースまで使える、ヘビーデューティながらも洒落た雰囲気も備えた靴は上流階級の人々から支持を集めており、チャールズ皇太子の御用達という名誉も賜っている。
世界の著名人に愛される理由は、質実剛健で素朴な一足からにじみ出る”オーラ”にほかならない。そして、その源となっているのが、バールトップ一族5世代が守り通してきた、180年以上の伝統。合理化が進む現在の靴業界において、頑なまでに昔ながらの手間のかかる製法にこだわるのは、同社が何より伝統を重んじているためだ。”伝統の靴作り”という魂。その汚れなきスピリットこそトリッカーズをなすものなのである。
チャールズ皇太子も愛するトリッカーズ
トリッカーズはチャールズ皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)からのロイヤルワラントを授かっていることでも有名。同社は20年ほど前から王室に靴を納めており、カントリーブーツのほかドレスシューズもチャールズ皇太子ご愛用だそうだ。英国に老舗の高級靴ブランドは数あれど、王室御用達の栄誉を受けているものはごくわずか。このようなストーリーもトリッカーズがファンを魅了する一因である。