「日本の人々は、ヘリテージをとても大切にしていると感じます。ブランドがどのように生まれ、どんな物語を紡いできたのかを理解したうえで、ウイスキーを楽しんでくれている」。そう語るのは、ザ・マッカランのマスターウィスキーメーカー、カースティーン・キャンベル氏だ。

1824年の創業以来、約200年にわたって受け継がれてきたザ・マッカラン。その歴史を未来へつなぐ役割を担うキャンベル氏は、今回の来日で、とある日本のものづくりに触れる機会があった。そこで感じたのが、日本のクラフツマンシップとの深いシナジーだったという。「日本のものづくりには、技術だけではなく、長い時間をかけて培われた知識や経験があります。それはザ・マッカランにも通じるものです」。
ザ・マッカランが大切にするウイスキー本来の自然の色合いと風味は、彼らのクラフトマンシップの賜物である。着色を施さず、その品質を守るため、クオリティコントロールでは五感を研ぎ澄ませた官能検査を行う。頼りになるのは、キャンベル氏ら、8名のウィスキーメーカーの感覚だけ。嗅覚をはじめ、色、味わい、口当たりなど、チェック項目は実に600以上に及ぶという。数字だけでは測れない微細な違いを見極める、まさに匠の技。その積み重ねが、変わらぬマッカランの品質を支えているのだ。
価格では計れない、ラグジュアリーの本質
彼女にとって「ラグジュアリー」とは、単に希少な素材や高価なものを意味しない。そこにあるのは、クラフツマンシップであり、匠の仕事。そして、その仕事について語ることのできるストーリーだ。「近道はありません」ときっぱり語る。その言葉には、時間をかけて品質を築くことへの揺るぎない信念が込められている。
ザ・マッカランが大切にしているのは、味わいだけではない。創業者アレクサンダー・リードから現代のウイスキーメーカーまで、何世代にもわたる知恵と技術を受け継ぎ、それを次の世代へ渡していくこと。そのため、200年のヘリテージを守ることこそが自分の使命だとキャンベル氏は話す。「仲間からは細かいと言われることもあります」と笑うが、その細部へのこだわりこそが、ブランドの個性を守っている。
その姿勢を象徴するエピソードがある。2025年、ザ・マッカランでは7700樽を仕込んだという。「そのウイスキーを、私は飲むことができないかもしれません。でも、それでいいのです」。自分のためではなく、まだ見ぬ未来の人々が楽しむためにつくる。だからこそ、ウイスキーは「タイムトラベルのようなもの」なのだ。
希少な長期熟成シングルモルト「ザ・マッカラン レッドコレクション」も、そんな時間への敬意を形にしたものだ。ザ・マッカランでは、同コレクションを“ヘリテージを祝う”存在と位置づけている。そこに詰まっているのは、創業者をはじめ、歴代のウイスキーメーカーたちが残してくれた知恵と仕事。いわば、先人から未来へ届けられたギフトなのである。
キャンベル氏は就任以降、週に一度、倉庫に眠る樽を確かめ、その成長を見守る。ここにも近道はない。ルーティーンをこつこつと続ける。そして過去から受け継いだものを守りながら、未来にも責任を持つ。その両方に足を踏み入れるように、彼女は今日も仕事に向き合う。トレンドを追うことはしない。サステナビリティや環境の変化といった、時代の課題にも真摯に向き合いながら、200年のヘリテージを次の100年へとつないでいくのである。
また、ザ・マッカランは異業種とのコラボレーションにも積極的だ。ただし、誰とでも組むわけではない。「私たちと同じ価値観やヘリテージを持っていること」が重要な基準になる。異なる分野の匠と出会いながらも、守るべき核はぶらさない。
クラフツマンシップとザ・マッカラン。「時間を惜しまず、技を磨き、受け継いだものを未来へ渡す」という精神には、日本にも通じる共通点がある。それこそ、日本人にザ・マッカランのファンが多い理由なのだろう。グラスの中で静かに時を重ねる一滴には、200年の過去だけでなく、まだ誰も知らない未来までもが込められているのだ。
取材・文/浦山真由美(MEN’S EX編集部)





