装いは行動と意識を変える“トリガー”である。【エグゼクティブの戦略的装い講座】

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エグゼクティブの戦略的装い講座
〜格を引き上げる、令和の装いの新基準〜

現代のビジネスシーンにおいて、装いの意味が深化している。かつて仕事人としての評価は成果や実績のみでなされたが、今は「どう見られるか」という戦略的視点も問われる時代だ。本特集では人事、エグゼクティブ・コーチング、接遇、プレゼンテーション、パーソナルスタイリングの各分野から、装いを信頼と評価を生む“設計”として再定義し、エグゼクティブに求められる令和の新基準を提示する。

戦略的装い講座(2) エグゼクティブ・コーチング
人を変える起点としての装い

装いは行動と意識を変える“トリガー”である

装いは評価を左右する“非言語の戦略”。リーダーに求められるのは、成果だけでなく好感度と信頼を得られる印象設計のスキルだ。

株式会社コーチ・エィ 執行役員 国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ 望月 寛さん

トップエグゼクティブの思考のパートナー
株式会社コーチ・エィ 執行役員 国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ
望月 寛さん

慶應義塾大法学部卒、青山学院大MBA。総合商社で20年にわたり食糧分野のグローバル事業を牽引し特許取得。2016年コーチ・エィ入社、タイ拠点代表を経てASEAN事業を統括し、現在は組織変革を支援。

違和感の先に変化をもたらすプレゼンスマネジメント

「人って、変わりたいと思っていても、なかなか変われないんですよね」

そう語るのは、エグゼクティブコーチとして多くの経営者に向き合ってきた望月 寛さんだ。その原因の一つは、「恐れ」だという。

「人は成功体験を反復しようとします。その安心感が、変化を鈍らせることも」

それは装いにも表れる。長年着慣れたスーツ、無難な色柄、安全な組み合わせ。変えたほうがいいと頭では理解していても、実際には踏み出せない。

「セルフイメージが崩れる怖さなんですね。周囲から『何かあったの?』と思われる不安もある」

だが一方で、装いは人を変えるトリガーにもなる。商社時代、望月さんには憧れのボスがいた。外国人経営者に囲まれてもまったく引けを取らず、凜としていて、品格があった。

「紺のスーツに白いシャツ。その姿が本当に格好よかった。僕は今でも、その人のイメージをどこかで追いかけています」

現在も望月さんは、紺のスーツを軸に装いを組み立てる。ベルトレスのサイドアジャスター仕様やダブルブレストなど、細部に自分らしさを加えながらも軸足は変わらない。

「服を変えると、背筋が伸び、いい意味で緊張感が出る。エネルギーが高まる感覚もあります」

装いを変えることは、固定化された自分を崩す作業でもある。だから違和感もある。その象徴的な出来事がメガネだった。ある日、先輩コーチから、「エグゼクティブコーチとしてのプレゼンスを考えるなら、もっといいメガネをしたほうがいい」とフィードバックを受けた。自分では似合っているつもりだったが、「いや、イマイチね」と返されたという。

「すぐに紹介された店に行きました。でも最初は、恥ずかしかったですね」

ところが周囲から「そのメガネ、いいね」と言われるようになり、少しずつ感覚が変わっていく。こうしたフィードバックを受け入れられるかどうかは、相手との関係性によって変わる。

「フィードバックって、相手との関係性の中で成り立つものなんです。私にとっての先輩コーチのように、私が目指す姿を理解し支援してくれている人だからこそ話も聞けるし、受け止めることもできる。もちろん逆に、自分から取りにいくこともできますよね」

もし相手との関係が悪ければ、人は耳を閉ざしてしまう。だが、自分の目標と、そのために必要な変化を理解し、伴走してくれる存在がいれば、人は少しずつ殻を破れる。

「一人で変えるより、誰かとの対話の中で変わっていくほうが、人は前に進みやすいんです」

そうした変化は周囲に与える印象にも表れていく。リーダーに求められるプレゼンスとは言葉だけではない。目線、姿勢、声のトーン、そして服装。自分という媒体から発信されるすべてが、周囲へ影響を与えている。

「装いはコントロールファクターです。だからこそ、意図すれば誰にでも整えることができると思っています」

なぜ人は変われないのか

恐れと安定志向

人は本能的に、結果が予測できない行動を避けようとする。過去にうまくいったスタイルを守り続けることで安心を得られるためだ。特にエグゼクティブになるほど「外さない」判断が求められ、その積み重ねが無意識のうちに保守的な装いを強化していく。変化しないのは意志の問題ではなく、合理的に安定を選び続けてきた結果。装いが固定化される背景には、こうした“安心を優先する構造”がある。

不安の正体

装いを変えることは「自分がどう見られるか」を変える行為であり、それはセルフイメージの揺らぎを伴う。今までの自分でいられなくなるのではないか、評価が下がるのではないか──そうした不安が無意識に働く。変化への抵抗の正体は、失敗そのものではなく、「これまで自分を成功に導いてきたスタイルや型を手放したくない」という感覚にある。

他者からの見られ方

もう一つが「周囲の視線への意識」だ。「急にどうしたのか」と思われるのではないか、といった心理が変化をためらわせる。特に組織内で一定の評価を確立している人ほど、そのイメージを崩すことへの抵抗は強くなる。だが実際には、自分が思うほどこちらを気にしていないことも少なくない。そうした“自分の思い込みによる恐れ”が、変化の機会を自ら閉ざしてしまう一因になっている可能性がある。

変化に必要なのはフィードバック!

自分の見え方を一人で正確に把握することは難しい。だからこそ変化の起点になるのが、他者からのフィードバックだ。相手に「どう映っているか」を受け取ることで、理想と現実のギャップが明確になる。重要なのは、自分にとって、ポジティブなこともネガティブなことも伝えてくれる存在がいること。違和感を伴う変化でも、相手に映る自分を知る中で納得に変わり、やがて新しいスタイルとして定着していく。装いを変えるとは、他者との関係性の中で自分を更新していくプロセスでもある。

あなたは、どう見られたいか?変化を促す「問い」の力

あなたは、どう見られたいか?変化を促す「問い」の力

装いは“変えるべきか”ではなく、“どうありたいか”から選び直すもの。

Aさん 「まず伺いたいのですが、あなたは“どう見られたい”と思っていますか?」

Bさん 「信頼されるリーダーでありたいですね。安心感を与えられるような」

Aさん 「では、今は周囲からどう見られていると思いますか?」

Bさん 「……仕事はできるけど、少し距離があると思われているかもしれません」

Aさん 「なるほど。その“ありたい姿”と“実際の見られ方”の間にギャップがあるとしたら、どこに表れていそうですか?」

Bさん 「話し方や表情もあると思いますが……装いも影響しているかもしれません」

Aさん 「もし今のスタイルを少し変えるとしたら、どんなことに抵抗を感じますか?」

Bさん 「急に変えると、周りに『何かあったのか』と違和感を持たれそうで……」

Aさん 「では、その違和感を恐れて変えないままでいると、何が起き続けますか?」

Bさん 「今のままの印象で固定される、ということですね……」

Aさん 「逆に、少し変えてみたときに起きる可能性は?」

Bさん 「新しい印象を持たれるかもしれない。関係性も変わるかもしれません」

Aさん 「今のスタイルを守り続けることと、変えてみること。どちらが“ありたい姿”に近づきそうですか?」

Bさん 「……変えてみることですね」

 

[MEN’S EX Summer 2026の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
※表示価格は税込み

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VOL.350

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