エグゼクティブの戦略的装い講座
〜格を引き上げる、令和の装いの新基準〜
現代のビジネスシーンにおいて、装いの意味が深化している。かつて仕事人としての評価は成果や実績のみでなされたが、今は「どう見られるか」という戦略的視点も問われる時代だ。本特集では人事、エグゼクティブ・コーチング、接遇、プレゼンテーション、パーソナルスタイリングの各分野から、装いを信頼と評価を生む“設計”として再定義し、エグゼクティブに求められる令和の新基準を提示する。
戦略的装い講座(4) プレゼンテーション
自己を提示する戦略としての装い
装いで “自分” をプレゼンせよ。
個の時代にこそ、見せ方は戦略になる
装いは強力な自己表現である。DX時代に価値を持つのは “誰が語るか”。だからこそ装いは、自分自身を伝えるための戦略なのだ。

世界が認めるプレゼンの神
株式会社圓窓 代表取締役
武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 専任教員(教授)
澤 円さん
元日本マイクロソフト業務執行役員。立教大学経済学部卒。ITコンサルタントやプリセールスを経てマネジメント業務に注力。現在は圓窓代表として企業顧問や講師を務め、テクノロジー教育と人材育成に携わる。
装いが「個」を語り始める。プレゼンはもう始まっている
朝、澤 円さんはクローゼットルームに立つ。その日の予定に合わせ、前夜からいくつかの服が並べられている。
「プレゼンのリハーサルは、ベッドで目覚めた瞬間から始まっています」
会場に入り、名刺交換をし、登壇を待つ。第一声をどう発するか。聴衆をいかに楽しませるか。澤さんは、その一日の体験全体を思い描きながら装いを選ぶ。
プレゼンテーションは総合芸術だと語る澤さんにとって、装いもまた表現の一部だ。人は視覚から多くの情報を受け取る。だからこそ、服は単なる身だしなみではなく、自分という存在を伝えるためのメディアになる。
生成AIの進化によって、知識や正解は誰でも容易にアクセスできる時代になった。だからこそ今後は、「何を知っているか」以上に、「どんな人間なのか」、すなわち「個」が問われる。
澤さんは、装いを「もっともタイムパフォーマンスのいい自己表現」だと言う。肉体改造のように長い時間を必要とせず、服は身につけた瞬間から変化を生み出す。しかも、自分自身の気分や振る舞いまで変えてくれる。
日本のビジネスパーソンは、長らく“無難”を重視してきた。就活スーツのように、皆が同じ格好をして安心する文化もその一つだ。しかし澤さんは、「無難とは埋もれることでもある」と指摘する。
装いとは、「どう見られるか」以前に、「どうありたいか」を示すものだからだ。
かつてスタイリスト・政近準子さんに見立ててもらった際、「あなたは自己表現ができているから、好きなものを着ればいい」と言われたことがあるという。その言葉は、澤さんにとって「自分で選ぶ」ことへの確信になった。
「誰かの目を気にしすぎるというのは、自分で考えていないとも言えるのです」
もちろん、相手に不快感を与えない配慮は必要だ。だが、明文化されてもいない空気に従い続けることは、自分の人生の主導権を他人に預けることでもある。だからこそ澤さんは、まず小さな冒険を勧める。
最初から高級店に行く必要はない。古着屋でもいい。今までの自分なら選ばなかった服を試してみる。それだけでも、自分の輪郭は少し変わり始める。
やがて方向性が見えてきたら、セレクトショップで店員に相談してみればいい。装いを通じて、自分がどう見られたいのかを言語化する。その積み重ねが、自己理解にもつながっていく。
ニューヨークの老舗百貨店バーグドルフ・グッドマンには、90歳を超えてなお顧客に寄り添った伝説的パーソナルスタイリスト、ベティ・ホールブライシュという方がいた。彼女は単に服を勧めるのではなく、ときには顧客の人生相談にまで踏み込んだという。
装いとは、単なる外見に留まらない。「どう生きたいか」の表明でもある。
一日の終わり、ジャケットを丁寧にブラッシングする澤さんの姿があった。思考はすでに翌日のプレゼンへ向かっている。クローゼットルームには、静かな準備の時間が流れていた。
装いは「自分をどう提示するか」という意思である
事務所近くに構える衣裳部屋。サカイ、ジュンヤ ワタナベ、ドリス ヴァン ノッテンなどが並ぶ空間で、その日の役割に応じた装いを選び取る。背後に見えるスチーマーは親交のあるMBさんに勧められた〈SteamOne〉。日々のケアまで含めて、装いは“設計”されている。
元日本マイクロソフト業務執行役員、現在は企業顧問や講師など多彩に活躍する澤さん。講演、プレゼン、対話とシーンごとに求められる役割は異なる。衣裳選びはその日のストーリー設計そのもの。装いは、“どう見せるか”ではなく“どう機能させるか”で決まる。
ジョン・フリューヴォグをはじめ、グッチ、チャーチ、オーダーものなど多彩な靴が並ぶ。“人と被らない選択”を楽しむのが澤流。
政近準子さんに教わった12万円の「イシカワブラシ」でブラッシング。高価ではあるが「服を長く活かすための合理的な投資」。
“プレゼンの神”が実践!「装い=自己プレゼン」3原則
原則(1)
装いは “最速で変えられる自己表現”
服は身につけた瞬間から効果を発揮する、最もタイムパフォーマンスの高い自己投資だ。体型やスキルは時間を要するが、装いは今日から変えられる。「どう見られたいか」を意識し、その意図をダイレクトに伝える手段として活用する。まずは“変化を起こす装置”として装いを使う──それが第一歩になるのだ。
原則(2)
装いは “全体設計” で考えよ
プレゼンは話す内容だけで成立しない。出会う前から会話中、そしてその後まで含めて“体験”として設計するものだ。装いはその一部であり独立した要素ではない。場面、役割、相手との関係性まで含め、全体の印象をどうつくるかを考えて選ぶことが重要。服だけを変えても意味はなく、「どう見せたいか」まで設計して初めて機能する。
原則(3)
「自分で選ぶ」ことがすべての起点になる
装いは他人に決められるものではない。何を着るかを自分で選ぶという行為自体が、自己プロデュースでありリーダーシップの発露だ。無難に従うか、意図を持って選ぶかで、伝わる価値は大きく変わる。DX時代に求められるのは「誰がやるか」。だからこそ装いは、“自分という存在”を刻むための手段として心得る。
[MEN’S EX Summer 2026の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)





