エグゼクティブの戦略的装い講座
〜格を引き上げる、令和の装いの新基準〜
現代のビジネスシーンにおいて、装いの意味が深化している。かつて仕事人としての評価は成果や実績のみでなされたが、今は「どう見られるか」という戦略的視点も問われる時代だ。本特集では人事、エグゼクティブ・コーチング、接遇、プレゼンテーション、パーソナルスタイリングの各分野から、装いを信頼と評価を生む“設計”として再定義し、エグゼクティブに求められる令和の新基準を提示する。
戦略的装い講座(5) パーソナルスタイリング
累計2万人以上の装いを支えてきた第一人者が明かす!
装いで体現するリーダーの在り方
「なぜその服を着ているのか?」その問いの背景には、装いが単なる演出ではなく、社会と繋がる対話のツールだという本質がある。「真のリーダーに相応しい装いとは」。日本のパーソナルスタイリングの第一人者である政近準子氏の目線から、その答えを紐解く。

トップの品格を創る伴走者
ファッションレスキュー代表 パーソナルスタイリスト
政近準子さん
日本におけるパーソナルスタイリストという職業を創出し、業界を確立。大手アパレル勤務後、イタリアで研鑽を積み、帰国後に独立。主に政治家、経営者、起業家など社会の第一線を担う人々のスタイリングを手がける。装いを単なる外見ではなく「生き方を映す力」と捉え、日本発の装い哲学「装力」を提唱。最新著書『装力 あなたの真の価値が伝わる「装い」の哲学』(時事通信出版局)が好評発売中。
2万人の臨床データが示す「衣服の役割」の地殻変動
現代のビジネスシーンにおいて、装いの意味が根本から覆る地殻変動が起きている。そう語るのは、日本におけるパーソナルスタイリストの創始者であり、これまで累計2万人以上のビジネスパーソンを支えてきた第一人者、政近準子氏だ。その膨大な現場経験から導き出された「衣服が持つ役割の本質的な進化」について、次のように切り出した。
「衣服の役割は、時代とともに激変しています。そこをまず知ってほしいのです。かつて、服は身体を守る『防具』でした。やがて横並びの安心感を得る『制服』に。しかし、今は違います」。
さらに政近氏はこう続ける。
「単に与えられた服を着る時代は終わり、現代はトレンドをそのまま纏うだけでなく、そこに自らの価値観を重ね合わせて編集する、成熟した装いの時代が来ています」。
また、エグゼクティブにおいては、その先があるという。
「服は単なる自己主張の道具でもありません。現代における衣服の真の役割は、社会や他者と良好な関係を築くための“コミュニケーション”。つまり無言の対話なのです」。
しかし現実のビジネスパーソンはどうか。政近氏は静かに警鐘を鳴らす。
「多くの人が、いまだマナー違反にならない服装という狭い視点にとどまっています。実にもったいない。特に管理職世代、そして未来を担う30代が身につけるべきは、他者や社会と良好な関係を築く能力としての『装力』。服は自分を飾る以上に、対峙する相手への敬意を表現し、自らの在り方を伝える最大のツールなのです」。
装力
「見せ方」ではなく「在り方」を映す鏡。装いを通して「自己」を「他者」「場」と調和したうえで自分の持ち味を最大限に発揮する。

「自己主張」から「対話」へ、格の違いを生むホスピタリティ
なぜいま、装いでリーダーの在り方を体現せねばならないのか。政近氏は、トップマネジメントの現場におけるコミュニケーションの質の変化を指摘する。
「特に上場企業の経営者と対峙する現場を想像してください。言葉を交わさずとも、第一印象で決着はほぼついてしまいます」。
従来の無難で減点されない装いでは、何が足りないのだろうか。
「それでは、リーダーとしての存在感が伝わりにくいのです。裏を返せば“その他大勢に埋もれる服装”であり、自らの志や覚悟といったリーダーとしての在り方を、何も表明していないことに等しい。私が推奨するのは自己満足のファッションではなく、他者へのホスピタリティを宿した装いです」。
では、装力におけるコミュニケーションとは、具体的に何を指すのか。
「相手に対する深い敬意の具現化です。たとえば、自社だけでなく、商談相手の企業のコーポレートカラーをさりげなくVゾーンに取り入れる。これだけで、言葉以上に『私はあなた方を深く尊重し、この商談に本気で臨んでいる』という強いメッセージが相手に伝わります」。
自分をどう見せるかではなく、相手をどう重んじるか、という視点だ。
「自分本位の“着たい服”や“楽な服”を着ているうちは、本当の意味で社会と対話するリーダーの在り方とは言えません。自分都合の快適さを超え、他者へ品格を届ける社会性へのパラダイムシフト。これこそが、多忙なエグゼクティブの言葉に、圧倒的な重みと説得力を宿す、最大の仕掛けとなるのです」。
現代に見る衣服の役割
洋服そのものの役割や使命が進化してきた中で、今、ビジネスシーンでは特に「装力」が不可欠となっている。
役割(1)
服は「身体を守るもの」から「自己表現」へ
役割(2)
服は「自己主張」から「コミュニケーション」へ(人をつなぐ対話)
役割(3)
服は「流行」から「個人の価値観」へ
ミリ単位の執念が、男の器を語り出す
現場のカウンセリングで政近氏が最も重要視するのは、基礎的なサイズ感とシルエットだ。確かに、肩のラインが落ち、袖口や裾がたるむとマイナスの印象を刷り込みかねない。
「どれほど高級な生地や仕立てのスーツでも、似合うシルエットでなければ、実にもったいない。私は現場でミリ単位のサイズ感を求めますし、ゆったりでもきつくもない完璧なフィットは、洗練された緊張感を放ちます。この圧倒的な存在感、これこそが、リーダーとしての威厳と信頼に満ちた在り方を内面から呼び覚ますのです」と政近さんは指摘する。
このフィット感と似合うシルエットを求める執念が、ビジネスエグゼクティブの格を担保する。

自分目線を卒業し、社会のための装いへ
こうした装力の恩恵は、次世代を担う30代のビジネスパーソンにも及ぶ。
政近氏は「若手はルールに縛られるのを嫌う傾向がありますが、装いで“背中で語る”マネジメントなら、部下の意識が自発的に変わることもあります」と語る。
さらに、「30代のうちに自分目線の快適さを卒業して、社会のための装いを意識できるようになると素敵ですね。その覚悟がある人こそが、未来の組織を変えるリーダーになれるはずです」とエールを送る。
服を単なる流行ではなく、社会と繋がるツールとして捉え直す。
以下で「装力はお洒落の技術ではなく、信頼を生むアプローチ」という政近さんの言葉を体現する、企業人の具体例を見てみよう。

『装力 あなたの真の価値が伝わる「装い」の哲学』
(時事通信出版局)定価2200円(税込)
服を通じて生き様や未来を輝かせる政近準子氏の著書『装力』の哲学が、いかに形となるのか。一着のオーダースーツに込められた想いを通して、装いを社会との対話ツールに変える企業人の姿に迫ります。
政近準子さんが指南するリーダー変貌の実例
装いでここまで変わる 劇的ビフォーアフター
装いで自分らしさを表現する「装力」。大手金融機関のリーダーが、自分都合ではなく「相手から見たおもてなし」で組織を変貌させた軌跡に迫る。
背中で魅せる「装力」が、組織の品格を動かす
大手金融機関で辣腕を振るう岸本さんは、政近準子氏のアドバイスにより、装いの変貌を経験した。
【Before】
「リーダーの威厳に欠け、部下への説得力も悩みの種」
岸本裕晶さん(47歳)
「ソーシャル」(社会性)と「自分らしさ」のせめぎ合いに悩んでいた3年前、名古屋支店勤務時に政近氏の著書に感銘を受け師事。以降、伝統や信頼を重んじる金融業界にふさわしい、英国調のスーツを纏うことで「装力」を開花させ、その装いで顧客に確かな信頼を届けている。
【After】
「外見が私の言葉の重みを代弁してくれるようになりました」
「以前は装いの知識や感性もなく無難な装いをしていました。今は『ソーシャル』と『自分らしさ』がせめぎ合い、導きだした装いにこそ本質があると痛感しています」。
特にこれからの時季、「エグゼクティブに求められるのは、単に『自分都合で快適な装い』をすることとは本質的に異なります」。
この考えに至った背景には、政近氏の教えがあったという。
曰く「相手に装いで涼を届けることは、おもてなしに他なりません。他者から見て『涼しげ』であることこそが、ビジネスにおける敬意です。細部への配慮が言葉に重みを持たせてくれますし、最近はチームのドレスコードへの意識変化も実感しています」。
装力で社会と対話する覚悟が強い牽引力となり、組織全体のポテンシャルをも引き上げたのだ。

政近さんからのアドバイス
「身体に合わない服を漫然と着ていたので、サイズ感を正し相手への敬意を示す社会性を徹底させました。細部への品格の宿し方が、ご自身の風格と部下の意識を変えたのです」
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[MEN’S EX Summer 2026の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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