[ブランド学/1]
ブランド創立50周年、その軌跡を考える
アルマーニはなぜいつの時代でも“憧れ”であり続けるのか
帝王と称され、現代メンズファッションに絶大な影響を与えてきたアルマーニ氏。ブランド創立から半世紀を経ても、人々を魅了し続けたその美学の核を探る。
横断する美学
アルマーニ氏の活躍の舞台
アルマーニ氏の活動の場は服のみにとどまらず、幅広く多岐にわたる。映画・建築・社会貢献まで、横断するその活躍の舞台を辿る。
In HollyWood
スクリーンから世界へアルマーニの飛翔
銀幕で表現された新しい男性像
アルマーニ氏の名を一般層にまで広めた決定打は、雑誌以上に映画だった。カメラの前でしなやかに揺れ、着る人の骨格の動きを流麗に見せるソフトテーラリングは、銀幕の男の佇まいを一変させた。転機は1980年に公開された『アメリカン・ジゴロ』。主演のリチャード・ギアが纏った軽い肩、美しいドレープ、そして抑制の効いたアーシーなカラーの装いは社会現象となり、官能と端正を両立する“新しい男性像”となった。そして、’80年代の男性たちは、個性やセクシーさを装いで表現する自由に目覚めたのだ。

アルマーニ氏は経営者としての手腕にも優れていた。衣装提供を早くから戦略的コミュニケーションと捉え、宣伝費を投下する代わりに映画という媒体での広告効果を狙ったのだ。ハリウッドのヒット作での着用は、全米の劇場・テレビ・ホームビデオへと波及し、百貨店の売場づくりやバイヤーの仕入れを直接後押しする。映画は最良の広告となって巨大な米国市場の扉を開き、現在へ続くブランド成功の礎を築いたのである。その後も『アンタッチャブル』、『ダークナイト』、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とハリウッド映画での衣装提供は続いた。


暗い画面にも映える陰影、動きの中で際立つ軽やかなジャケット、色数を絞った着こなし。スクリーンはアルマーニの服が持つ説得力を高め、服を単なる衣装ではなく人物の性格そのものを描く道具へと変えたのだ。映画を通じて、彼の美学は流行ではなく“憧れの男性像”として広まっていった。
[MEN’S EX Autumn 2025の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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