一流のトップは逆境でいかなる言葉と気持ちを大切にし、乗り切ってきたのか。本連載にご登場頂いた方々のなかで、加藤綾子さんの心に特に残っている7名のリーダーたちに今の心得を聞いた。
【加藤綾子の心に響いた 稀代のリーダーたちが贈る 今を乗り切るヒント】
第4回 星野リゾート 代表 星野佳路さんのコトバ
「練習は不可能を可能にする。」
私は困難なときほど意外と活き活きしてきます。根拠のない楽観性かもしれませんが、限界は突破できると確信しているのです。この確信の原点は大学時代、所属していた体育会アイスホッケー部での経験にあります。慶應義塾体育会庭球部出身で、大学の塾長を務めた小泉信三先生は「練習は不可能を可能にする」という言葉を残しましたが、私の4年間の体育会生活の中で、この言葉が身に染みた瞬間が何度かありました。
限界は自分がそう思い込んでいるだけで、本当の意味での限界ではないのです。そのおかげで、社会に出て苦境に直面しても必ず克服できると思えるようになりました。不良債権処理時のリゾート再生、誰もが無理だと思ったことを実現すべく、限界を乗り越え、社員と一緒に成功体験を積み重ねてきました。
危機の際は立ち止まり、先延ばしにする投資もあります。しかし、状況が読めてきたならば、果敢に攻めに転じてきました。危機をきっかけに星野リゾートで新しい仕組みが誕生したことも少なくありません。
当社は軽井沢の温泉旅館でしたが、バブル崩壊があったからこそ企業として成長のチャンスを得ました。平時では強者は強いままですが、ひとたび社会的に大きな変化が生じた時に、小さな企業にも成長する機会が生まれるのだと思います。
カトMEMO
- スタッフとのフラットな関係作り、上手いコミュニケーションが組織を強くしてきた。
- 厳しい状況であっても悲観的になることなく、未来を見据える視線をもつことが大切。
星野佳路 Yoshiharu Hoshino
1960年生まれ。長野県軽井沢の星野温泉旅館に生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院修士修了。1991年星野リゾート社長に就任(現在は代表)。経営が破綻した大型リゾート施設などの再生にも着手。現在の運営拠点はラグジュアリーリゾート「星のや」、温泉旅館「界」など国内外で42ヶ所。
加藤綾子 Ayako Kato
1985年埼玉生まれ。2008年フジテレビ入社、看板アナウンサーとして活躍。’16年、フリーアナウンサーとなり女優としても活動。現在は報道番組『Live News it!』(CX)のメインキャスターを務めるほか、『ホンマでっか!? TV』(CX)にレギュラー出演中。
著書に『会話は、とぎれていい―愛される48のヒント』(文響社刊)。
働き方から生き方、価値観まで、この数ヶ月で大きく変わりました。苦しいこと、つらいこともありました。しかし、これまで凝り固まっていた固定観念や慣習がプラスに変わるきっかけにもなったと思います。毎号の「一流思考のヒント」連載では様々なトップの生き方、仕事を通して得てきた思考をご紹介してきました。多くのトップは大変な時期こそチャンスと捉えてきましたが、今回の特別編では今の逆境に対する考え方を、皆さまに寄稿いただきました。これから私たちは変われるのか、試されている時期だと思います。困難を乗り越えた先には、必ず、世界は良くなると信じて。
[MEN’S EX 2020年8月号の記事を再構成]
撮影/前 康輔、鈴木泰之 スタイリング/後藤仁子〈加藤さん〉