ジャケットとパンツは、工場を分けて縫製するのが服飾産業の慣例である。近年、凄腕のパンツ職人の登場もあり、ジャケットの仕立てだけではなく、パンツのつくりも俄然注目されるようになった。パンツの出来映え次第で、さらにスーツの魅力が増すからだ。鳥取のパンツ工場を訪ねた。

今月のいいお店(ショップ)
鳥取 – エイワ

教えてくれる人
ファッションジャーナリスト
矢部克已さん
メンズファッション誌編集部を経て渡伊。本国の服飾文化を吸収して帰国。ピッティ・ウォモを欠かさずに取材。常に「ファッションの現場」が気になるため、この連載に力を込める。
30年を超える大ベテランの職人が揃う、日本に数少ないパンツ工場の実力派
ひっそりとした片田舎から生まれる、巧みなパンツ
鳥取砂丘コナン空港からレンタカーで向かった。神話”因幡の白兎”で知られる、白兎海岸沿いを通り抜け40分ほど走ると、周囲の民家に馴染んだ「エイワ」のパンツ工場に辿り着いた。十分に年季の入った建物である。
【歴史】
2002年に再出発を果たしたのが、現在の「エイワ」だ。それまでは、大手アパレルメーカーの提携パンツ工場だったが、度重なる大量のパンツづくりの注文には対応しきれなくなった。その当時の1990年代は、ジャケットやパンツの生産拠点を人件費の安価な中国に移す転換期であった。そんな潮流のなか、福田 守(まもる)氏が「エイワ」を引き継いだ。
【生産】
能率優先でパンツづくりをせざるを得なかった以前の工場のやり方ではなく、昔からの本縫いのミシンを使った、丁寧なパンツづくりにシフト。小ロットで多様なデザインに対応できるパンツの縫製である。パンツづくりは、注文先の要望にいかに対応するかが、基本姿勢だ。要望の多い”ハンガー面がいいパンツ”や”はき心地のいいパンツ”に応える。”ハンガー面がいい”とは、シワがなく、センタークリースが真っ直ぐに入り、掛けた時にラインがストンと真っ直ぐ下に落ちる。見た目がいいパンツである。”はき心地がいい”とは、注文主の感覚や感性によるところが大きいが、快適にはけるパンツを望みどおりにつくることを目指す。1本1本の仕様が異なるパターンオーダーが生産量の7割を占める。日産約70本だ。