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しかし、これを前提とする限り、「情報集約」→「合意形成」→「意思決定」→「伝達」→「リソース投下」→「現場の実行」という具合に、いくつもの中間プロセスが必要になる。このマネジメント・モデルでは、もはや時代の変化スピードにはとてもついていけない。

情報を集めて、商品をリリースするまでのあいだに、マーケットのニーズが変質するといったことも、もはや決して珍しくはない。もはや「経営管理」という考え方が、成り立たなくなりつつあるのだ。

こうした流れを受け、ロンドン・ビジネススクールの経営学者ゲイリー・ハメルは、今後の企業経営陣の課題は「マネジメント・イノベーション」になると語っている。

つまり、従来の階層型組織が持っている欠点を取り除き、「個人」が自律的に戦略立案や意思決定を行う分散型組織へのシフトを、経営トップらが真剣に考えていかねばならないというのだ。

これをさらに推し進めるなら、「唯一の明確なビジョンをカリスマ社長が提示し、社員たち全員がその達成を目指して尽力する」という、いわゆるトップダウン型のビジョン経営すらも、時代にはそぐわなくなってくるだろう。

これからの望ましい組織とは?

むしろ、経営者はごくゆるやかな不変のミッションだけを提示しておき、あとはそこに集った個人やパートナー企業が思い思いにそれぞれのビジョン(妄想)をミッションの価値観を守る範囲で実現していく、いわゆる「ティール組織」が望ましい。

ダイヤモンド・オンライン

不要な階層性を取り去り、個人がフラットに価値を生む「場」をつくる自律分散型の組織こそが、21世紀のビジネスの勝者となるのかもしれない。

今回は、ソニー時代の「顧客視点による商品開発プロセス導入」の失敗談を書いたが、その背景には、同社の「ヤミ研」カルチャーがあったことも忘れてはならないだろう。

「本当にやりたい大事なプロジェクトは、机の下で隠れて勝手にやれ!」「上司は理解してくれないかもしれないぞ。盛田(昭夫・名誉会長)さんが来たときに直接見せろ!」——かつてのソニーでは、そんなふうに先輩がアドバイスすることすらあったという。

創業者の一人・井深大が打ち出した「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」(同社『設立趣意書』より)という文言のとおり、ソニーはもともと、ある種の「ティール的な組織文化」を持っていたのである。

同社在籍中、僕は以前の失敗の経験を踏まえ、「理想工場」をボトムアップで再興する全社プロジェクト「Sony Seed Acceleration Program」の立ち上げに関わった。

このプロジェクトの裏には、「分散型組織によるマネジメント・イノベーション」を再現しようとする設計思想があった。

いちいち細かなプロセス管理をするより、社員の自律性を大事にしたプログラムのほうが長続きするし、結果的にうまく広がる——そんな洞察は、やはり同社にも息づいている。公平を期して、ソニーのこうした素地や動きについても補足しておきたい。

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