
ただし、手結びボウタイなら何でもいいというわけではない。大人の男に相応しい存在感のある大きめなバタフライ型やバットウィング型(イラスト参照)がいい。
で、出かけたついでにネクタイ売り場を覗くんだけど、どこの百貨店も大手セレクトショップも、そんな手結びボウタイは売れないのか品数が少なく、色柄も寂しい限りだ。あるのは出来合いのポインテッド型(イラスト参照)や小ぶりのバットウィング型ばかり。
そもそもボウタイの魅力は、微妙に左右非対称な型崩れに味があり、左右対称にカチッと整えた出来合いのモノは、ボウタイひとつ結べないおこちゃま紳士のようでいただけない。
今手持ちのなかで特に気に入ってるのは「シャルベ」のボウタイ。シャルベは1838年にパリに創業した世界最古のオーダーシャツ店だけど、数年前、初めて入ったヴァンドーム広場の店の一階売り場にディスプレイされた信じられないほどの色柄豊富なボウタイを目にしたときの感動は今も忘れない。ここのボウタイの特徴は、一目見てそれとわかる発色の良さもさることながら、結び目が太くて全体的にぽってりとした愛らしいフォルムだ。面白いことに、シャルベのボウタイは出来合いのものと同様に結んだ状態で売られており、首の後ろからホックで留めるところも一緒。ただし出来合いと違うところは解くことも可能なので、オレは購入後にバラしちゃう。やっぱボウタイは毎回結ぶごとに形が違うのも味だから。
さて、そんな手結びボウタイ好きのオレが唸ったのが映画『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』(2015年。ベルギー・アイルランド合作)だ。
近代建築の巨匠ル・コルビュジエと、アイルランド出身の美しき家具デザイナーで建築家のアイリーン・グレイ。映画は、そのアイリーンが南仏カップ・マルタンに完成させた自身の別注「E.1027」を舞台に、ル・コルビュジエとアイリーンの交流と愛憎を描いたドラマ。同業でさ、二人とも天才クリエーターで男と女でしょ。そりゃ口ではお互い才能を認め合いつつも、嫉妬や愛憎が渦巻くのは致し方ありません。
それよりオレは、映画の中でヴァンサン・ペレーズ演じるル・コルビュジエの華麗なボウタイの数々と、リゾートカジュアルの着こなしに激しく嫉妬したことを告白します。
ル・コルビュジエのトレードマークといえば丸めがねとボウタイ。それに影響されて極太黒縁の丸めがねをかけてル・コルビュジエを気取るお洒落ピープルは沢山いるけど、さすがにゾーンからはみ出るほど大きいビックバタフライを締める強者はいまい。これをお笑いキャラにならずにシックに着こなせたら、相当なクリエーターぶりですよ。
また、アイリーンが建築家として最初に設計した別注「E.1027」の完成お披露目パーティでは、招待を受けたル・コルビュジエはじめ、クリエーターは全員ジャケットなしのシャツスタイルにボウタイ!で、パンツは尾錠付きのハイバックときたもんだ。
白シャツとベージュのパンツ。この淡いトーンの組み合わせは永遠のロマンチックコーディネート。M.E.流にいうところの”古きよきビジネスカジュアル”だ。
どう、この夏シャツスタイルにボウタイを結んでみてはいかが?
今月のシネマ
『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』 (2015)
[MEN’S EX 2018年8月号の記事を再構築]