近頃、話題の「アート」。そこでの注目の用語を通して自分の知識を、そしてビジネスでの会話を広げてみては?

Commissioned by HOME, University of Salford Art Collection, Tate, Zabludowicz Collection, Frieze Film and Channel 4.
芸術は、いわば「危険早期発見装置」である
——マーシャル・マクルーハン
ビッグデータやAIが変えていく世界に応答するアーティストたち
展覧会タイトルの「Hello World」という言葉にピンとくるならパソコンに詳しい人だろう。プログラミングのチュートリアルでお馴染みのこのセリフはコンピュータに命が吹き込まれた瞬間のメッセージだ。
本展は、テクノロジーの飛躍的な革新により人間の知能を超えたAI(人工知能)が誕生した世界で、いよいよコンピュータに人類が操られてしまう”人間以後”(ポスト・ヒューマン)の近未来に予測される課題を大きなテーマとしている。マクルーハンの言葉は、芸術によって日常世界に潜む問題や混乱に私たちが気づくことができるという意味なのだ。
国際的に活躍する8組のアーティストたちの作品のなかには、ブロックチェーン、仮想通貨、人型ロボット、フェイクニュース、ビッグデータ、ソーシャルメディアといったネット社会にまつわるキーワードがちりばめられている。美術館に一歩足を踏み入れると、まるで映画『ブレードランナー』の映像世界に迷い込んだような気分にさせられるだろう。
ネット広告で気になった情報を無償でダウンロードし、マップや乗り換え案内アプリで出張スケジュールを確認する便利で快適な毎日。でも、サービスを提供する側に誰がいて、何を目的に動いているのか。インスタグラムやツイッターの「いいね」の数は、あなたの人生に何をもたらしてくれるのか。スワイプする指をちょっと止めて考えてみてほしい。人間は自律した行動なしに幸せにはなれないのだ。
レイチェル・マクリーン《大切なのは中身》 2016

ヴェネツィア・ビエンナーレでスコットランド館代表に選ばれた新進気鋭のアーティスト、レイチェル・マクリーン。「いいね」の数に一喜一憂するソーシャルメディアの女王に彼女自身が扮した、30分のサイケな映像作品は挑発的。
「技術革新と混沌の交錯地点が、フェイクニュース」
——エキソニモ(赤岩やえ、千房けん輔)

《キス、または二台のモニタ》2017
デジタル情報にはフェイクも混じるが、モニターのイメージと実世界との差異に、人間の脳内に混乱が生じてしまう。このキスする男女の顔が映ったモニターを重ね合わせた作品が、なぜかエロティックに感じるように。
「ユーザー・インターフェイスは、至る所・モノに存在する」
——ヒト・シュタイエル

《溢れだした》2016
Courtesy of the artist and Emanuel Layr Galerie, Vienna
衛星や軍用機の画像キャリブレーションをモチーフにした作品にも注目。
『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』
会期:開催中〜 5/6(日)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城県水戸市五軒町1-6-8)
開館時間:9:30〜18:00(入場時間は17:30 まで)
休館日:月曜日、5/1(火) ※ただし4/30(月・祝)は開館
料金:一般800円ほか
お問い合わせ:水戸芸術館 TEL:029-227-8120
[MEN’S EX 2018年4月号の記事を再構成]
文/柘植 響 構成/神山典子