エグゼクティブの戦略的装い講座
〜格を引き上げる、令和の装いの新基準〜
現代のビジネスシーンにおいて、装いの意味が深化している。かつて仕事人としての評価は成果や実績のみでなされたが、今は「どう見られるか」という戦略的視点も問われる時代だ。本特集では人事、エグゼクティブ・コーチング、接遇、プレゼンテーション、パーソナルスタイリングの各分野から、装いを信頼と評価を生む“設計”として再定義し、エグゼクティブに求められる令和の新基準を提示する。
戦略的装い講座(1) 人事
評価を決める土台としての装い
リーダーの資質は装いへの意識で決まる
装いは評価を左右する“非言語の戦略”。リーダーに求められるのは、成果だけでなく好感度と信頼を得られる印象設計のスキルだ。

人事ひと筋30年
株式会社 We Are The People 代表取締役
安田雅彦さん
南山大学卒。西友、グッチグループジャパン、J&J、アストラゼネカで人事領域を歴任し、ラッシュジャパン人事統括を経て起業。現在は組織人事支援に加え、NewsPicksプロピッカー、フライヤー社外取締役も務める。
好印象を与えようとする意思が令和のリーダーに問われている
人事評価の現場で、「見た目が悪いから評価を下げる」ことは、実際にはほとんどない。そう前置きした上で、安田雅彦さんは「リーダーとして、どれだけまわりの好感を得られるかは確実に問われている」と語る。
外資系企業で繰り返し耳にしたのが、「Perform as Leader(パフォーム・アズ・リーダー)」という言葉だったという。リーダーらしく振る舞うこと。そこには当然、装いも含まれる。
「昔から、日本でもリーダーたるもの身だしなみに気を配るべきだとは言われていました。ただ、それは不文律だった。でも今は、より強く問われるようになっています」
背景にあるのは、AI時代の到来だ。知識や情報だけなら、上司よりも生成AIのほうが早く、正確に答えを返す場面も増えた。これからのリーダーは「人としてどうか」が見られるようになると安田さんは言う。
実際、ブランドビジネスでは装いへの意識はさらにシビアになる。安田さん自身、ファッションやコスメティックスの企業を見てきた経験から、その業界特有の緊張感を感じてきた。
「ブランドビジネスでは、人そのものがブランドの一部です。例えばファッション企業の部長が〈私、服には疎いんです〉と言っていたら、社内の共感は得られません。会社を代表する人、ブランドを体現する人は、見た目も含めて見られている。ヘルスケア企業の人が、どう見ても不健康そうでは説得力がない。それと同じですよね」
一方で、安田さんは日本企業に残る「装いの違和感」も指摘する。特に管理職層に対して感じるのは「人からどう見られたいか」という意識の希薄さだ。
「高価な服を着ろという話じゃないんです。ちゃんとプレスされたシャツを着ているとか、清潔感があるとか、体型維持に気を配っているとか。そこには相手に好印象を与えたいという意思の有無が出るんですよ」
かつては、昼間は厳格でも、夜の飲み会で人間的魅力を補完する昭和型マネジメントが成立していた。しかし今は、飲み会や懇親の機会は激減。日中の振る舞いやスーツ姿だけで魅力を伝え、尊敬と信頼を獲得しなければならない時代になった。その変化は、企業の服務規程にも表れ始めている。以前は曖昧だったドレスコードも、組織文化やブランド方針として言語化されるケースが増えてきた。しかし、その目的は型にはめることだけではないと安田さんは言う。
「装いは、その会社の人間になるということでもある。そのブランドを愛し、価値観を体現する。その意識があるかどうかの差は大きいと思います」
そんな安田さんには、以前から続けている習慣がある。自分自身の姿を写真に撮ることだ。
「客観視するためですね。自分が思っている自分と、他人から見えている自分が違うことがある。写真って、それをすごく冷静に教えてくれるんです」
どう見られたいか、どうありたいか。装いには、その人の欲と意思が映し出されるのだ。
なぜ装いが社会的評価に影響するのか?
日本のマネジメント層が抱える見た目の課題
NG① サイズが合っていないスーツ
清潔感や信頼感を損ない、「だらしない」「無理している」印象に。
NG② シワ・ヨレ・手入れ不足の装い
細部への無関心=仕事への姿勢と見られやすい。
NG③ TPOに合っていない服装
「場を読めない人」という評価に直結。
NG④ “思考停止”の量産型コーデ
無難だが個性や意志が見えず、「印象が残らない」。
NG⑤ 自己管理能力が感じられない状態
外見=自己管理能力と捉えられ、リーダーとしての説得力が得られない。
なぜ装いはAI時代のキャリア戦略になるのか?
意義① 評価は「成果+人物像」で決まる時代に
装いは“全人格”を可視化する要素
かつてリーダーの価値は、知識や経験といった「何ができるか」によって測られていた。しかし生成AIの台頭により、情報へのアクセスは均質化しつつある。これからの時代は「誰が言うか」「どんな人物なのか」といった全人格が評価の軸となる。装いはその人物像を瞬時に伝える重要な要素であり、好感や信頼感の形成に直結する。決して見た目だけで評価が決まるわけではないが、評価される「土台」を整える役割は確実に担っている。
意義② 個人は“企業ブランドのメディア”である
装いはコーポレート価値を体現する手段
SNS時代において、エグゼクティブ一人ひとりが企業の「顔」として見られる環境が常態化している。肩書きを背負って外に出る以上、その人物の印象はそのまま企業ブランドに結びつく。特にブランドビジネスにおいては、装いと企業イメージのズレは致命的である。だからこそ装いは個人の趣味ではなく、組織価値を体現する戦略的行為となるのだ。令和のエグゼクティブは、何を着るかではなく、「どう見られるべきか」へのアプローチが問われている。
意義③ リーダーシップは“好感度設計”である
装いは信頼関係を築く起点になる
現代の組織は、エンゲージメントや信頼関係が成果を左右する構造へと移行している。上下関係だけでなく、部下や同僚、外部パートナーまで含めた多面的な関係性の中でリーダーは評価される。そこで重要になるのが「この人と働きたい」と思われるかどうかだ。装いは第一印象を決定づけ、その後の関係構築の起点となる。清潔感やサイズ感といった基本を押さえ、相手に好印象を与えようとする意志そのものが、リーダーとしての資質を示す。
[MEN’S EX Summer 2026の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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