新型アルテオンの発売でプレミアムの領域に踏み込んだフォルクスワーゲンブランド

ファストバックスタイルの4ドアクーペサルーン
ジェネラルブランドのなかでも電動化の急先鋒と目されるフォルクスワーゲン(VW)グループ。日本では再びアウディと法人組織を合体させ、電気自動車(BEV)用充電インフラ構築を進めることまで発表した。彼らは本気だ。
欧州ではすでにコンパクトカーのID・3、コンパクトSUVのID・4といったBEVを市場へ投入し、成功を収めつつある。特にID・4は昨年、欧州で12万台も売れたグループナンバー1のBEVで、今年中には日本市場にもやってくる予定だ。さらに待望のワーゲンバスもBEVのID・BUZZとして正式に“復活”するという。
とはいえVW&アウディが完全に電気自動車オンリーのイメージかというと、実はそうではない。当然だ。コロナ禍による半導体不足などでかなり台数を減らしたとはいえ、ゴルフはいまだに欧州ではベストセラーカーだし、コンパクトSUVのTロックも売れに売れている。全体を見ても世界販売888万台のうちBEVはわずかに45万台。5%でしかない(それでも前年比倍増だったから、大いにニュースとなった)。
BEV急先鋒のブランドであっても主流はいまだにエンジン搭載のモデルたち。その素直な乗り味や高い完成度を忘れてはいけないと改めて気づかせてくれたのが、新型アルテオンだった。
アルテオンはパサートをベースに開発された流行りの4ドアクーペサルーンだ。厳密にはハッチゲート式のリアドアを持つから、ヨーロッパでは昔から馴染みの深い5ドアモデル(ファストバック)である。質実剛健さが魅力のパサートに比べて、よりスタイリッシュな存在だ。
アルテオンに用意されたもう1つのボディタイプ
そもそもアルテオンの位置付けはパサートよりも“プレミアム”。VWブランド自体は冒頭にも記したようにジェネラル=一般的なブランドで、トヨタや日産やルノーと同レベルの巨大メーカーブランドである。基本的なメカニズムを共有するプレミアムブランド、例えばトヨタに対するレクサスのような存在として、アウディがある。
けれどもアルテオンの見栄えや質感は内外装ともにすでにアウディ級に達している。価格的にもアウディA4アバントやBMW 3シリーズツーリングあたりと同等に設定されており、完全にプレミアムの領域にある。それゆえパサートの最高級グレードよりさらに高額な価格設定とされた。逆に言うと悪目立ちしないブランドの最高級品、というわけで、密かな満足を得ることもできる。言ってみればたいへんツウ好みのモデルでもあった。
そんなアルテオンにはシューティングブレークと呼ばれる派生モデルが存在している。セダンクーペのルーフを延長してステーションワゴンスタイルに近づけたスタイリッシュなモデルだ。シューティングブレークというネーミングはその昔、英国の貴族が狩猟用具を積んだブレーク=ワゴン(馬車)に由来する。のちにジャガーやアストンマーティンといった高級2ドアクーペをベースに大金持ちが特注したオリジナル・シューティングブレークモデルが少量のみ製作された結果、シューティングブレークという言葉にある種のスペシャリティ感やスポーティな印象が伴うことになった。そこに目をつけた欧州プレミアムブランド(特にメルセデス・ベンツ)がスタイリッシュなワゴンのことをシューティングブレークと名付けるに至って、流行りのクーペサルーンをベースとしたステーションワゴンのことを一般的にそう呼ぶようになったというわけだ(かなりの無理強いではあるけれど)。