傑作時計の肖像
只の男でないことを静かに物語る二つの月を抱く永久カレンダー
完成された伝統の意匠があらゆるスタイルをシックに格上げ
永久カレンダーは古典趣味なデザインの時計に搭載されることが多いが、「ポルトギーゼ」は、クラシックでありながら、モダンさも感じさせる美しいデザインが持ち味。ゆえにフォーマルからビジネス、そして休日の上品カジュアルまで、幅広いスタイルに合う永久カレンダーモデルが欲しいなら断然狙い目だ。
ポルトギーゼの歴史
《1917》
英国海軍向けに製造した高精度な懐中時計。ほとんどが航海用計器として使用されたため、文字盤は視認性を優先したすっきりしたデザインだった。
《1939》
高精度な腕時計を求めるふたりのポルトガル商人の要請で、懐中時計用ムーブメントを使用した腕時計を開発。これがポルトギーゼの初代モデルだ。
《1993》
創業125周年を祝って、初代が積む、Cal.98をベースとするCal.9828を搭載し、それをシースルーバックから観賞できるよう仕立てた記念作を発表。
《2003》
自社製のCal.5000に、クルト・クラウス開発の永久カレンダーモジュールを統合した「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」を発表した。
《2018》
シャフハウゼンの本社が新しくなるとともに、業界最新鋭の設備を持つ新しいムーブメント組み立てラインが始動。ますます高度な時計作りに邁進。
職人技と先進の製造方法を融合し独自の地位を築き上げたIWC
IWCはインターナショナル・ウォッチ・カンパニーの略称。スイスの老舗ながら珍しく英語の名を持つのは、創業者のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズがもともと米国の時計技師であることに関係する。起業家でもあった彼は、スイスにわたり、ドイツ国境に近いシャフハウゼンの町に1868年に工場を設立。ジュネーブやジュラといった時計の聖地に背を向け、シャフハウゼンを選んだのは、ここにはライン川の水力発電所があり、スイスの伝統的な手仕事と機械を用いた米国の先進的生産体制の融合を図るのにベストと考えたからだ。目論見は見事当たり、IWCの最初のムーブメント、「ジョーンズ・キャリバー」を積んだ懐中時計は、当時の最高品質と絶賛される。以後高度なエンジニアリング技術を有するブランドとしてみるみるうちに頭角を現し、1885年には時・分をデジタル表示する画期的な懐中時計を発表。19世紀の終わりには、懐中時計用ムーブメント、「キャリバー64」を搭載したIWC初の腕時計もいち早く手がけている。
デザイン的にもメカニズム的にもIWCの顔と呼べるポルトギーゼ
「ポルトギーゼ」はそんなIWCで長い歴史をもつコレクションのひとつ。誕生のきっかけは、1930年代の終わりにふたりのポルトガル商人が航海用クロノメーターに匹敵する高精度な腕時計を注文したこと。要求を叶えるため、IWCはハンターケースの懐中時計に使っていた大型ムーブメント「キャリバー74」と「キャリバー98」を用い、当時としてはかなり大径となる42mmの腕時計を1939年に開発。これが初代ポルトギーゼだ。
現在ポルトギーゼはIWCでもっとも人気の高いコレクションだが、理由のひとつに初代を受け継ぐ完成度の高いデザインがある。懐中時計用ムーブメントを積んで誕生したことから、伝統的に大ぶりのケースがアイデンティティ。ベゼルを引き絞っているため、ダイヤル面積自体も広めだ。しかしながらまったく間延びして見えないのは、立体感あるアラビア数字インデックスや、細身ながらも中央部がぷっくりと膨らんだリーフ針、さらに外周に配された“シェマンドフェール”と呼ばれるレイルウェイ目盛りの効果だ。端正にして知的、そしてほんのり色気や愛らしさまで感じさせる、時代を超えた魅力を放つ名デザインと言える。
もちろんブランドの看板にふさわしく、クロノグラフやカレンダーなどの複雑機構を積極的に搭載してきたこともポルトギーゼ人気が高い理由だ。2003年に登場した「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」はその頂点に立つもの。IWCの時計技師クルト・クラウス氏が1980年代に開発した、わずか80個の部品で、日付・曜日・月表示のほか、4桁の西暦やムーンフェイズまで表示する伝説の永久カレンダーモジュールを、自社製ムーブメントと統合している。今回紹介した「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 44」はその最新作だ。
伝統の端正なデザインのうちに、IWCの類まれなる技術力を凝縮した特別な1本として、ぜひ注目していただきたい。
お問い合わせ先
IWC
TEL:0120-05-1868
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