“変わらないこと”の裏に尋常ならざる努力を見た
「コロナ禍以来、訪問できていなかったアメ横。取材を終えて再認識したのは、アメ横の“変わらなさ”でした。というと簡単なことのように聞こえますが、実は大変凄いこと。ブランドやファクトリーはどんどん変わっていきますし、時には消滅の憂き目にあったりもします。そのうえ物価は年々上がる一方。そんな時代の激流にも呑まれることなく、昔ながらのものをできるだけ手頃な価格で提供し続けることは並大抵ではありません。
泰然とした様子の裏で、尋常ならざる企業努力を続けてきたのでしょう。アメ横において創業60年、70年の店は珍しくありませんが、そもそもこれだけの歴史を絶やさず今に繋いでこられたことに敬服します。私もピッツェリアを経営していますが、本当に大変なのは事業を発展させるよりも継承していくこと。アメ横のショップは世代をまたいで、昔ながらの“アメ横らしさ”を受け継いでいるのが素晴らしいなと改めて実感しました。
’09年のM.E.取材時、私は『アメ横も少し寂しくなってしまった』という感想を抱きました。しかしコロナや情勢不安で世の中が沈む今にあっては、むしろアメ横に力強さを感じます。先日アンディ・ウォーホルのアートが約250億円で落札されたことが話題になりましたが、ウォーホルですら過去には時代遅れと評価されかけたことがあります。アメ横も今後さらなる黄金期を迎えるかもしれない。そんな予感を抱かせる取材でした」
池田哲也 Tetsuya Ikeda
Profile
1968年生まれ。早稲田大学で経済を学んだのち三越に就職。特選紳士服売場のバイヤーとしてローマに駐在する。帰国後は服飾評論家の傍ら、森下でピッツェリア「ベッラ ナポリ」を開業。現在もピザ職人として店に立つ。
[MEN’S EX Summer 2022の記事を再構成]