【#おうち時間充実計画】/映画とファッション #01
感染症対策のため、引き籠って過ごす時間が増えた方も多いことでしょう。このような時期はいっそ、テーマを決めてものごとを学ぶチャンスととらえることもできます。たとえば映画を“スタイル”という観点から見直し、その気づきを日頃の装いに活かすというテーマはいかがでしょう。
なんといっても、服はそれだけで完成するわけではなく、個性をもち、ことばを発する人間が、しかるべき場面において着用して初めてスタイルとして「生きる」ものでもあります。細部に至るまで考え抜かれた衣装を名優がアクションとともに着こなす上質な映画は、多くの示唆を与えてくれる最高の教科書となります。
色彩のセンスを学びたければ、イタリア映画、あるいはイタリアのデザイナーが衣装を提供している映画にヒントが満載です。リチャード・ギアの出世作『アメリカン・ジゴロ』(1980)は、ジョルジオ・アルマーニが衣装を提供していますが、映画序盤のシーンは壮観です。
ギアがベッドの上に投げ出す、光沢あるグレージュのシャツとブルーのグラデーションのネクタイが織りなす世界は、イタリアの洗練された色彩感覚を教えてくれます。
一方、イタリアは大胆で鮮烈な色使いをも得意としますが、そうした貴族的な色の使いこなし方は、『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(2013)にその典型を見ることができます。
英国紳士的な品格あるスーツスタイルのヒントを知りたい時には、楽しさも優先して『キングスマン』(2015)。コリン・ファースの伝統的英国紳士スタイルもさることながら、下層階級の不良少年から正統派紳士へと劇的変貌を遂げるタロン・エガートンのフレッシュな紳士スタイルもいいですね。
カジュアル化が進む現代にはあまり見かけない装いとはいえ、紳士のエッセンスは学び取れます。メガネ、指輪、傘、靴などの小物にしても、実際に映画のようには使えなくとも、妄想をかきたて、小物選びをワクワクするものにしてくれます。
カフリンクスの扱い方のヒントは「007」シリーズにも見られます。ダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドは、アクションの合間にカフリンクスを直します。アクションの「ピリオド」であるかのように。ボンドはまた、トムフォードのスーツを着るなど、外しの流儀も見せてくれます。
永遠のスタイルアイコンであるスティーブ・マックイーン、ケーリー・グラントが登場する映画もお勧めです。背が高くないマックイーンの肩幅や着丈のバランス感覚。ケーリー・グラントのグレースーツの着こなし及びセーターにスカーフを合わせる華やかな寛ぎのセンス。目に焼き付けておきたいお手本です。
ドレスダウンでは、たとえば『パルプフィクション』(1994)のジョン・トラボルタや『アニー・ホール』(1977)のウッディ・アレンなど、人を魅了する着こなしは一般法則からではなく、何よりもキャラクターの個性から生まれることを教えてくれます。
例を挙げ始めたら楽しくてきりがありませんが、観る人の視点の数だけ発見も多いはず。社交が解禁となった暁には、発見の成果をぜひ実践で応用してくださいね。振る舞いの教養や映画文化の知識も身につくので、中身もセットで磨かれているはずです。
服飾史家/昭和女子大学客員教授
中野 香織さん
ファッション史から最新モード事情まで執筆・講演をおこなうほか企業の顧問を務める。著書『「イノベーター」で読むアパレル全史』『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』ほか多数。
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[MEN’S EX 2020年5月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)