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化学的根拠に基づく「対策型」のがん検診の種類とは?

「対策型」のがん検診としては、下記が挙げられます。

 胃がん(胃X線検査、胃内視鏡検査)、
 大腸がん(便潜血検査)、
 肺がん(胸部X線検査、喀痰細胞診)、
 乳がん(マンモグラフィ)、
 子宮頸がん(細胞診)が推奨されています
(外部リンク:科学的根拠に基づくがん検診推進のページ)。

これらの対策型検診として推奨されているがん検診は、いずれも死亡率減少効果が科学的に証明されており、メリットがデメリットを上回ると考えられています。そして、対策型のがん検診に推奨されている検査以外は、「任意型検診」に該当します。

肺がんに対する低線量CTや前立腺がんに対するPSA検査、乳がんに対する超音波検査などの有名な検査も、現時点では任意型検診の1つとして数えられています。

がん検診のメリットは早期発見・早期治療

よく言われているように、がん検診を受けることで、自覚症状のない段階でがんを早期発見できる可能性があります。自覚症状をきたすような進行したがんでは、臓器によっては根治できないこともありますので、そうなる前に早期発見・早期治療でき、がんによる死亡を防ぐ可能性があることはがん検診の大きなメリットです。

また、がんを早期に発見できたために、より小さな手術で根治することができた、抗がん剤の治療が不要だった、などのメリットを受けられる可能性も考えられます。

がん検診にもデメリットがある!

その一方で、がん検診にもデメリットがあり、大きく(1)偽陰性、(2)偽陽性、(3)過剰診断の3つにわけることができます。

まず(1)の偽陰性とは、がんを正しく診断できず、見逃してしまうことです。残念ながら100%がんを見逃さない検査は存在しませんので、どうしてもこのような可能性があります。

さらに、がん検診で「異常なし」だったため、次回以降のがん検診を受診しなかったというケースもあり、検査をしなかった場合よりもデメリットが大きくなる可能性があります。

ただし、もし一度見逃された場合にも、毎回検査を受け続けることでがんを発見できる確率は高まります。このため、がん検診は適切な間隔で受け続けることが必要です。

そして(2)の偽陽性とは、検診でがんの疑いと判定されて、より詳しい精密検査を行ってもがんが発見されないことです。がん検診はがんの拾い上げに非常に有用ですが、確定診断には至りません。病変をより詳しく調べるためには、精密検査を必要とします。

がん検診は多くの方に行われますので、怪しい病変をできるだけ見つけつつも、安価で手間のかからないものである必要があります。そのために診断の性能が少し犠牲になり、本当にがんでないものも拾い上げてしまう可能性があるのです。

一方で精密検査といわれる検査は、診断の性能は高いものの時間や費用などコストがかかることが多く、実際に針を体に刺して病変から細胞を採取するなど、体に負担がかかるものもあります。このため無症状の多くの人に実施するのには向いていません。がん検診で陽性と判断された人に限定して、精密検査を行うのが適切です。

がん検診によって偽陽性が生じてしまった場合には、がんは存在しないのに追加で精密検査を受診することとなり、無駄な費用や通院の時間がかかります。さらに、自分ががんではないかという心理的負担がかかってしまうことは、検診の大きなデメリットと考えられます。

早期発見されても進行が遅いがんもある

過剰診断とは、生命を脅かさないがんを発見することです。意外に思われるかもしれませんが、がんの中にも成長がゆっくりで身体に影響を及ぼすまでに長い時間がかかるものもあります。また、ごく一部には、進行がんにならずに消えてしまうものがあることも知られています。

非常に小さな、がんかどうかわからない病変が検診で発見されて、そのまま何年も経過観察を続けているというケースもありますし、通院を続けているうちに消えてしまった、という場合もあります。

過剰診断がなければ、こうした進行しない、あるいは消えてしまうようながんを発見することはなく、定期的に病院に通い続けることも、患者になり治療を受ける必要もなかったかもしれません。

全部ではありませんが、甲状腺がん、肺がん、乳がん、前立腺がんなどの一部には、このような非常に成長が遅いがんが含まれており、がん検診を受けることでこれらのがんを過剰診断される可能性があります。

がん検診のメリットとデメリットのバランス

どんな医療行為にもメリットとデメリットがあり、これらを天秤にかけて考えなくてはいけません。しかし、これらのバランスは個人の価値観によっても変わります。

例えば、多くの偽陽性が生じたとしても、自分が精密検査を受けて安心できるのであれば構わない、と考える人もいると思います。また一方で、検診で生じるデメリットをできるだけ減らしたい、と考える人もいるでしょう。個人の価値観においてはどちらも間違ってはいないと思います。

ただし、「対策型検診」に推奨されている検査については、死亡率減少効果が確立され、メリットがデメリットを上回る可能性が高い、厳選された検査のみであることは覚えておいて頂きたいと思います。

「任意型検診」については、どんな施設でどんな検査を行うかによってメリットとデメリットは大きく変わってきます。これらの判断を、医療の専門家でない個人で行うことは難しいため、実際にはどんな施設で受診するかが重要になるでしょう。

施設を選ぶ際には、早期発見・早期治療を叫ぶだけではなく、がん検診のメリットとデメリットを十分に説明し、意思決定を助けてくれる医療機関を選択することが大切だと考えます。

和田武

千葉大学医学部附属病院放射線科特任助教、放射線診断専門医/医学博士 2011年千葉大学卒。聖路加国際病院、がん研有明病院を経て千葉大学医学部附属病院放射線科に勤務(特任助教)。2015年に北米放射線学会Cum Laude(優秀賞)を受賞し、2016年には聖路加国際病院チーフレジデントを歴任。「画像診断をもっと身近に、面白く」をモットーに、医学雑誌での教育的連載やオンライン講義など行う。

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ダイヤモンド・オンライン

[ダイヤモンド・オンラインの記事を再構成]
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