オートマタを得意とした時計師
あれは確か1973年のクリスマス・シーズンの事だった。宵闇迫るパリの街を歩きまわっていた時、確かサマリテーヌ百貨店のショウウインドウの中に、何体ものオートマタがあるのを見つけたのだった。美しく飾り付けられた世界の中で、様々な動きを見せるオートマタに、しばし見とれたものだった。
初めて見る自動人形に、どのようなメカニズムでそれは動いているのだろうと、大いなる興味を覚えたものだったことを思い出す。
オートマタと呼ばれる小型の自動人形が登場したのは18世紀の事、それまでにも教会などの塔時計に取り付けられた自動人形装置はあったけれど、スイスの時計師ピエール-ジャケ・ドローの手になるそれは、全く人間のしぐさにそっくりな動きをする精巧極まりないものであり、ヨーロッパの各国の王宮などに招かれたジャケ・ドローは、様々なスタイルの自動人形を残していった。
ジャケ・ドローの工房はその後19世紀になると、後継者がいなかったことや世界情勢の変化などの影響を受けて閉鎖されてしまうのだが、1990年にフランソワ・ボデ氏を中心とした人々によって再興された。
ボデ氏はブレゲの再興にも力を尽くした人物で、当時再現が不可能と思われていたパイヨンという装飾を施した美しいタイムピースを、再び時計のケースや文字盤に施して脚光を浴びた。パイヨンという装飾は、花の形などに刻んだ金の小片をエナメルによって固定するもので、18世紀から19世紀には盛んだったが、やがて腕時計の時代が来るとほとんど忘れられた技術となっていたものだった。
さてそのジャケ・ドローは今、スウォッチグループの中でも、芸術工芸的な時計を作るブランドとして、世界の好事家たちを楽しませる時計を次々と作りだしている。
数年前に発表された、巣の中の小鳥にえさを与える親鳥のオートマタがある時計は、その細やかな動きで人々を驚かせ、楽しませたが、今年の新作オートマタ時計「マジック・ロータス・オートマトン」は、『禅の庭』をテーマとしたもので、睡蓮の咲く池に一尾の鯉が泳ぎまわる。