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『黒船』、日本から世界への気概
——今回は、松山さんと加藤和彦さんとのコラボレーションの集大成というべきサディスティック・ミカ・バンドのアルバム『黒船』について、聞いていきたいんですが。
あのアルバムは、ビートルズやピンクフロイドはじめ、数々のアーティストを手がけたイギリスの大物プロデューサー、クリス・トーマスのプロデュースなんですよね。それは、このアルバムの詞を書く前に、もう決まっていたんですか?
松山 それはもう決まってた。
——なるほど。決まってて、じゃあ、こっちとしてはこういうコンセプトでやるみたいなことを提案して、という進め方だったと。「この歌詞は、結構いろいろ苦労した」っておっしゃってましたが?
松山 結構、時間かかったね。地球の片隅の日本という国のことを思い描いて、日本人にとっての最初の品物との出会いとか、それを中心に書こうと思った。それから、日本人は例えばオランダ人とか清国の中国人とかと付き合ってたんだけど、出島の風景ってどうだったんだろう、どんな人が行き交ってたり、休みの日は何してただろう、とか考えているうちに、「じゃあ、どんたくだ」みたいなね。
——この作品の歌詞の世界観は、それまでの宇宙的な方向性とは違いますもんね。『颱風歌』(たいふうか)とかも入ってますし。
松山 台風って人間の力ではどうしようもない、ドラマチックな世界じゃない? 日本の四季とか、そういうのを広くいっぱい織り込みたかった。
——なるほど。このレコーディングはロンドンですか、日本ですか?
松山 日本だったね。クリス・トーマスが来たんです。レコーディング・スタジオに、僕ももう、しょっちゅう行ってた。
——どんな感じのレコーディング風景だったんでしょう?
松山 まあ、曲者ぞろいだからね。高中正義がいて、小原礼がいて、高橋幸宏がいて。おもしろい連中たちがいて、いろんな話しましたね。高中君がいつも髪の毛染めてくるんだよ、七色に。最初は1色だったの。でも、しょっちゅう変えるから。「全部いろんな色、やっちゃったら?」って、それで七色になったの。
——このアルバムを改めて聞いてみると、かなり高中さんのギターがフィーチャーされてる感じですよね。
松山 そうね。加藤もギターでは高中にはかなわなかったんじゃない?(笑)
——松山さんは、ミカ・バンドのロンドン公演には、同行されたんですか?
松山 ロンドンは一緒には行ってない。彼らは、ウエンブリー・アリーナとかでやってんだよね。
——75年に、ロキシーミュージックの全英ツアーのオープニングアクトを務めていますよね。『黒船』は、クリス・トーマスのプロデュースということもあって、日本のものを世界に輸出するみたいな、そういう意識はあったんですか?
松山 それはもちろんあったね。日本人にもこんなことできんだぞ、みたいな。そういう気負いはちょっとあったかな。当時、プログレッシブロックをメインに、勢いのあったイギリスのハーベストレーベルからレコードが出たときはすごくうれしかったね。アメリカでは、キャピトルからリリースされたんですよ。