ジュネーブ取材 DAY 2
それは過剰なまでに変化した
時計デザインに対するアンチテーゼか
ヴィンテージ・ウォッチのファンにはもちろんのこと、スマートなクロノグラフを待ち望んでいた時計ファンなら、この新しくもクラッシックな雰囲気で一杯のゼニスのクロノグラフ、「パイロット クロノメトロ Tipo CP-2 フライバック」に注目するに違いない。
経年変化が楽しみなブロンズ素材のケースに、チョコレートブラウンの文字盤、そこにくっきりとしたフォントによる、スーパールミノバのアラビア数字のインデックスが、いかにも凛々しいデザインである。
この時計の原型となったのは、1960年代半ばにイタリア軍のサプライヤーであった、ローマのカイレリ社が扱った、ゼニス製のパイロットウォッチだそうだ。
回転ベゼルを持ち視認性を重視したデザインには、ミリタリークロノグラフの揺るぎ無き存在感を感じる。ストラップも雰囲気のあるオイリーヌバックを用いていて、これまたヴィンテージ感で一杯だ。レザーのブルゾンやセーター、またツイードジャケットなどに合わせても、この時計は最高に魅力を発揮するに違いない。
そしてもちろん今回のモデルのムーブメントは、ゼニス社の歴史的アイコンであり、定評あるエル・プリメロ。
このところ時計の世界では、自社のアーカイブに残るクラッシックなデザインの時計を、再び作り出そうという機運のようなものがある。それはある意味過剰なまでに変化した、時計デザインに対するアンチテーゼなのかも知れないと考えるのだがどうだろう。
機能としての時計の進化を内包しながら、その外装のクラッシックさで包み込むことで、いつまでも古びることなく、愛用できる物づくりには大賛成だ。
なぜなら男性のファッションはそれほど劇的に変化することがなく、我々はおよそ100年前からのスタイルを今も崩していないし、これからも続けていくだろうと考えるからである。
Profile
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。SIHHは初回から欠かさず取材を重ね、今年で28回目。
撮影/岸田克法 文/松山 猛