いよいよ、ザ ソブリンハウスがスタート
’97年2月まで有楽町店に勤務した太田さんは、3月からザ ソブリンハウスへ異動。アルバイトとして勤務した原宿店、社員となってから働いた有楽町店。店頭で接客の楽しさ、顧客を増やす喜びを覚える日々の一方で、仕事への意識が変わり始めたのもこのころだ。
「女性にギフト用のネクタイをご提案したときに、夢を与える仕事だと改めて気づきました。それまでは販売にまい進していたけれど、何を最優先すべきか、考え始めたのです。お客様と一緒にスタイリングを考えるなど、いわばお客様ファーストを心掛けるようになりました。現在、お付き合いのあるお客様のなかでも、当初の3〜4年間に出会った方々が一番多いと思います」。
20年間、ザ ソブリンハウスとともに歩んできた太田さん。最近の装いについて尋ねると、以前に比べ、ぐっと控えめになってきたという。そのきっかけは、2006年にスタートした外商(※)だ。
コラム: 太田さん入魂の新作をチェック!(写真2枚)
ステージに立つのは自分自身ではない
「ステージに立つのはお客様であって、私自身ではありません。選ぶブランドが以前と同じでも、生地やシルエットが変わってきたのです。年齢を重ねて無駄な装いをしなくなったし、派手なものと王道のものがあれば後者を選びます。いまは社会性の大切さを意識するようになりました。シンプルで上質なものを心がけ、靴下をはいてヒゲは剃る。いまは世の中全体がそうなってきましたよね。たとえば電車の車内。スーツにタイドアップしているのに、素足で靴を履いていれば、周囲から不思議そうに見られてしまいます。自分たちは黒子であるべきだから、派手すぎてはいけない。それを地味でつまらないという業界の方もいらっしゃるかもしれません。でも自分自身が華やかである必要はないと思っています」。
自分が一歩引き下がり、周囲に配慮した装いができるのは、経験を積み、成熟した大人の選択のひとつであろう。太田さんが、多くの顧客の気持ちをつかんでいるのは、幅広い着こなしを経験したからに違いない。そしてたどり着いた控えめなスタイルに、我々も学ぶところがあるはずだ。
コラム:太田さんのファッションをチェック!(写真4枚)
※この記事は前編・後編にわけてお送りしました。>>[前編]はこちら
撮影/小澤達也(Studio MUG) 取材・文/川田剛史