ゲリラ兵であれ! 書評『間違える勇気。』【松山 猛の道楽道 #010】

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松山 猛の道楽道(どうらくどう)

『間違える勇気。』は、LVMHグループ時計部門プレジデントの、ジャン-クロード・ビバー氏への、インタビューをまとめた一冊だ。

2018年のバーゼルワールド初日に、ウブロブースの前でビバー氏と会うと、開口一番「もう新しい本は届いたかい?」と聞かれた。
「いや、まだだよ」というと、「ちょっと待ってくれるかい」とブースの中へ行き、しばらくして手渡してくれたのが、彼のサインと僕への献辞のある『間違える勇気』だった。
その夜さっそく読みはじめてみると、僕にとっても懐かしい昔話がたくさん出てきて、一気に読み終えたほどだ。

この一冊は、クオーツ時計の出現によって、混乱を極めていた時代のスイス時計業界のなかで、いかに自分の仕事を愛し、人々の心をつかむ機械式時計を世に送り出すかに人生を賭けた、たぐいまれな経営哲学を語ったインタビュー集であり、その経営への姿勢や考え方は、時計世界だけではなく、どのような仕事のジャンルにでも当てはめられるものだと思う。

僕がビバー氏と出会った時、すでに彼は成功を収めた後だったので、パワフルな経営者として彼をとらえていたのだが、このインタビュー集には、時計業界に仕事を得た若かった時代から、有名ブランドでさまざまな経験を積み、ある時期は時計世界から離れる事もあったが、やはり時計の世界が好きな自分を発見し、やがて友人の、ジャック・ピゲとともに、休眠状態であった”ブランパン”ブランドを買い取り、お金が潤沢ではなかったので、セールスの旅にキャンピングカーを使い、駅の有料シャワーを使っていたなど、僕が知らなかったエピソードもたくさん出てくる。

本の帯に「ゲリラ兵であれ!」と、過激な言葉が書かれているが、確かに彼の経営手腕には、意表を突くところがある。しかしジャン-クロード・ビバー氏の精神の根本には、人を愛し、仕事の中に興味を増幅しながら生きる、彼の哲学が流れているのだと僕は思う。
そんなビバー氏の考えを、インタビュアーのジェラール・ルラルジュは、楽しみながら聞き出してくれていて、そのQ&Aのテンポが心地よく感じられるのだ。
おかげで僕も、ビバー氏の事をこれまでより、より深く理解できたし、この人生に勇気を与えてくれる本を、多くの人に読んでもらいたくなったのだ。

LVMHグループ時計部門プレジデント ジャン-クロード・ビバーの経営学
間違える勇気。

ジェラール・ルラルジュ著
幻冬舎
価格:1400円+税

松山 猛 Takeshi Matsuyama

1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。

2024

VOL.341

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