ヴィンテージ・ファッションはなぜ面白いか【松山 猛の道楽道 #007】

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松山 猛の道楽道(どうらくどう)

フィレンツェにおいても、ヴィンテージ・ファッションは静かな人気を持っているようだ。なぜなら今はもう作ることができなくなった技術が、それらの昔の洋服には隠されているからに違いない。

今回の滞在でも何軒かのヴィンテージ・クローズを扱う店を見て歩いた。結果としてはあまり収穫がなかったのだが、今、若い世代がヴィンテージを求める気持ちが、なんとなく理解できる気がしてきたのだった。

彼等は昔の服が持っている素材の良さや、丁寧な物造りに心を動かされているにちがいないと、確信するにいたったわけだが、その一方に高価になりすぎたファッションに手が出せないという、懐事情もあるに違いない。

その点ヴィンテージ・ファッションは、基本が古着であるから価格的にも求めやすいし、それを自分流にコーディネイトして、個性的に装う事を楽しんでいるのだろう。

「タータン・ヴィンテージ」フォトギャラリー(写真3枚)

僕の場合サイズの問題があるから、洋服そのものよりも、帽子、ネクタイ、靴といったアクセサリー的なものがもっぱらの対象となる。今回もかなり古い時代、おそらくは1940年代ごろのコンビの靴や、程度の良いフェドラ、いわゆるソフト帽の面白いものを見かけることができたのだが、どうしても買おうという物欲が出なかった。

なぜならそれらは僕のワードローブに、充分揃っているものだったからだ。

それでもまたフィレンツェに出かけたら、覗いてみたいと思う店がある。それは「タータン・ヴィンテージ」という、主に英国物のヴィンテージ・クローズを集めた店で、良い時代のツイードの上着や、洒落たネクタイなどのコレクションが素晴らしい店だ。

今ではファッション王国のイタリアだが、その実彼らは英国の物造りやスタイルに対して、ものすごいほどのリスペクトをしている。いやコンプレックスを持っていると言ってもいいほどだったものだ。

なぜなら昔から、イタリアの老舗メンズ・ショップには、チャーチの靴やバーバリーのコートなど、伝統的な英国ファッションが並んでいたものだったからだ。クラシコイタリア以来、彼ら自身が自信を持ったといえるが、今も心のどこかに英国に対する憧れの念はきっとあるに違いない。

小さな、だが充実したコレクションがぎっしりと並んだ「タータン・ヴィンテージ」の店で感じたファッションを、この秋は楽しんでみたくなった。

Tartan Vintage
Via dei Palchetti 5-5a
50123 Firenze
tel.+39 339 562 1310



松山 猛 Takeshi Matsuyama

1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。

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