これまで、MEN’S EXでは、高度な腕前を持つ職人の方々を紹介してきた。彼らの持つ特別な技術は、これまでにも多くの場で分析されてきたが、実はテクニック以上に面白いのはそれぞれの人生だ。名人芸を生み出すきっかけは個性的な経歴があってこそ。この連載では、そんな名職人たちのユニークな人生を取材し、超絶技巧が生まれた背景を探ってみたい。
マーキス代表 川口昭司さん【前編】
Profile
川口昭司(かわぐちしょうじ)さん
1980年、福岡生まれ。大学卒業後、英国へ渡り、靴作りの専門学校で技術を習得。その後、ポール・ウィルソン氏の下でビスポーク靴の製法を学ぶ。のちに独立し、自分のワークショップを構える一方で、ガジアーノ&ガーリングのビスポーク靴の製作にも携わる。2008年に帰国し、2011年に自身のブランド、マーキスを設立する。
高校生の頃に愛したのは意外なブランド
この数年、目の肥えた業界関係者から非常に評価の高いビスポークシューズがある。それがマーキス。英国で靴作りを学んだ日本人男性が帰国後にスタートしたブランドだ。設立者である川口昭司さんはまだ30代の若手。それほど魅力的なシューズを作り上げる人物像が気になり、今回取材をお願いすることに。
まず、川口さんの靴への入り口からうかがったところ、そもそもは特別にシューズや英国トラッドに傾倒していたわけではないと聞いて驚いた。
「高校生の頃には、ファッションに興味があって好きな服を買っていました。当時、選んでいたのは古着や、ジョンムーア、クリストファー ネメスなど。特に靴が好きということもなかったし、洋服に囲まれているのがただ楽しかったのです」。
高校生活の途中、一か月間の短期留学で英国へ渡った川口さん。ロンドン郊外のサリーという街に滞在し、英国に魅力を感じたものの、まだ、靴職人の道に進む気持ちは芽生えていなかったという。