先代モデルと比べて心臓部は?(写真3枚)
そして心臓部。6?のW12 TSIツインターボのパワーユニットは8速DSGと組み合わされ、635psに900Nm、0−100m加速は3.7秒と、先代コンチネンタルGTスピードをも凌駕するスペックとパフォーマンスを得たという。それでいて気筒休止やアイドリングストップ&リスタート、燃料タンク容量の増加によって、先代V8モデル並の約845kmという最大航続距離を実現しているそうだ。
いざシートに腰を落ち着けて、コンフォート・モードでスタートすると、軽めのステアリングフィールを通じていかにもスルリと易しく、コンチネンタルGTは走り出す。駆動方式は通常はFR方式だが、「アクティブオールホイールドライブ」が状況に応じて前後トルク配分を最適化制御する。コンフォートでは前車軸側のトルク配分は最大で38%(400Nm)と、ミニマムでも後車軸側に62%以上のトルクがつねにふり分けられる。これをスポーツ・モードにすると、フロント側へのトルク伝達は最大で17%(80Nm)に限られ、FR的特性をさらに強めるようになる。
今回の試乗は生憎の濃霧に見舞われてしまったが、12気筒をフロントに押し込んでいるとは思えないほど、軽快な回頭性の片鱗は十分にうかがえた。4名フル乗車でワインディングを走っても、どの回転域からでも強大なトルクが湧き出てくるので、道が登っているのか下っているのかさえ、意識しなくなってしまう。乗り心地がすこぶるフラットで静粛性もきわめて高い。ただしスポーツ・モードでは明らかにスロットルのレスポンスとシフトスピードが増し、ひとたび強く踏み込めば、ドスの効いたエキゾーストノートを辺り一面に轟かせて、後輪で豪快に力強く路面を蹴り上げる感触があった。

W12ツインターボのエンジンフィールも、先代までの過剰なトルクが溢れ出るような感じから、スムースに強大なパワー感を供給してくるような、スマートな力強さに変化を遂げた。荒々しいパワー感は秘めつつも、決して荒っぽくはならない、そういう上品なスポーティさは、ベントレーならではのドライビングプレジャーだ。
この完璧に調律されたベントレー・ワールドにひとつだけ難癖をつけるとすれば、オプションをたっぷり載せたファースト・エディション仕様の広報車には、「読ませる」ディティールが多過ぎること。シートのヘッドレストに縫い込まれた「FIRST EDITION」の刺繍、左右のフロントフェンダー脇のエアレットには「12」のロゴ、さらにはリアトランクリッドにも「BENTLEY」のロゴ文字などで、これはオプションで選べるようになった。従来、ベントレーは外装に「フライングB」以外のマスコットやロゴを纏わず、エンジンスペックやパフォーマンスについても「必要にして十分」とだけ発表していた。そんな数値や文字で明確化できないクオリティをよしとしていた節がある。だが新興国をはじめ新しい顧客層を開拓する現代のロジックでは、あらゆるオプションをオープンにしておかざるをえないのだ。
ようは新しいコンチネンタルGTもベントレーである以上、「全部のせトッピング」どころか、マリナーの工房を頼ればあらゆるビスポーク誂えが可能なのだから、ココロあるオーナー予備軍は要・不要の見極めが自らのスタイルや様式を創り上げることを、忘れるべきでないだろう。良い趣味に留まるための必要条件に難しいことは何もないが、悪趣味への十分条件はわりと低いものなのだから。
文/南陽一浩 撮影/デレック槙島 構成/iconic