時代を超えるブリティッシュスタンダードバイクを味わう
バイクの基本形として多くの人が思い浮かべるのはカウルなどを装備しない”ネイキッド”と呼ばれるスタイルだろう。そんなバイクのスタンダードとも呼べるデザインで人気が高いのが、英国のトライアンフ。日本での販売台数は2016年、2017年と2年連続で過去最高を記録し、2017年は大型の輸入車部門でハーレー・ダビッドソン、BMWに次ぐベスト3入りを果たしている。
その人気の中核を担うのが同社が”モダンクラシック”と呼ぶクラスの「ボンネビル」シリーズだ。130年におよぶトライアンフの歴史の中でも、「ボンネビル」という名は特別な意味を持っている。その由来は、アメリカはユタ州にあるボンネビル・ソルトフラッツ。グレートソルト湖という塩湖の西方にできた平原で100平方マイル(東京ドーム5,500個分)の広さを持つこの場所は「スピード・ウィーク」と呼ばれる最高速度を競い合うイベントでも知られている。トライアンフは1956年にこの競技で当時の最速となる345km/hを記録。その名を冠したモデルが1959年発売の「T120 ボンネビル」で、それ以降、同ブランドのイメージリーダーとなるモデルにこの名が冠されてきた。今回、試乗した「ボンネビルT100」はその最新モデルだ。
長い歴史を持つだけに、スタイリングはそのヘリテイジを感じさせるもの。特に垂直に配置された2気筒エンジンの存在感は古き良きイギリス車の雰囲気を色濃く残している。ただ、その中身は先進的なもので、空冷のようなフィンが刻まれたエンジンは実はラジエーターを備えた水冷。燃料供給はもちろん電子式のインジェクションで、スロットルも電子制御のバイ・ワイヤ式だ。足回りに目を向けてもブレーキはABSが搭載され、タイヤのスリップを防止するトラクションコントロールやクラッチ操作を軽くするトルクアシストも装備されている。
しかし、実際にエンジンをかけて走り出すと、その乗り味は良い意味でクラシカル。900ccの2気筒エンジンは最高出力55PS/5900rpmとこのクラスにしてはおとなしめな数値。ただ、エンジンをかけた瞬間から体に伝わってくる重厚な鼓動感は、そんなスペックなどどうでもよくなるくらい迫力にあふれている。軽く操作できるようになったクラッチをつないで走り出してもエンジンの存在感は圧倒的で、18インチのリアタイヤを通じて着実に路面を蹴り出しているのが感じられる。これは270度という2つのシリンダーが不等間隔で爆発するクランク角度に由来するもので、トラクションコントロールなどの電子デバイスに頼る以前に路面にパワーを伝えるトラクション性能が優れているためだ。81Nmという大きめの最大トルクを3280rpmという低回転で発揮する特性もあって、アクセルを開けた瞬間に213kgの車体を気持ちよく加速させてくれる。ピーシューター(豆鉄砲)と呼ばれるクラシカルな形状のマフラーから耳に届く排気音も迫力十分だ。