2022年に刊行された『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ』の第2弾として、「複雑時計編」が発売となった。本書ではここ数年ブームが続いている複雑時計に絞って、その魅力的な機能や難解に動く「しくみ」を、とにかくわかりやすく解説。奥が深いさまざまな複雑機構のしくみをご紹介しよう。
機械式時計に関する用語集
少々難解なメカニズムの話も、時計の用語がわかれば楽しさ倍増。時計史に関わる重要な発明からパーツ名にいたるまで、主要な専門用語をきっちり解説。
あ行
あがき
歯車と歯車の間などに潤滑油が油膜を形成できるように設けられた隙間のこと。歯車の真軸が穴にはめられる際の「縦がき」や「横がき」がある。
穴石
金属の摩耗による軸受けの劣化を防ぐため、地板や受け板のうち、テンプや歯車の真軸が接する部分にはめ込まれた石のこと。通常、受け石とセットになっている。素材は人工ルビーが多い。
アンクル
テンプとガンギ車の間にあり、枝分かれしたアームの先端に爪石(人造ルビー)がはめ込まれている、脱進機を構成するパーツのひとつ。
アンクル受け
アンクルの真軸を支持する受け板のこと。ガンギ車と同じ受けのムーブメントもある。
一番車
機械式時計の動力源であるゼンマイを内蔵した歯車。香箱車ともいう。ゼンマイが破損した際に他のパーツを傷つけないようにする、ゼンマイに注したオイルを他の箇所に漏らさないようにする、あるいはホコリなどからゼンマイを保護する役割もある。
インカブロック
耐震機構。時計を誤って落としたときに最も壊れやすいテン真(テンプの芯棒)が折れないように、バネ付きの穴石でテン真を支える耐震構造のひとつ。同様の機能をもつものにダイヤショック、パラショックなどがある。
オシドリ
形がオシドリに似ていることからそう呼ばれる、時刻合わせに必要なパーツ。リューズを引くとオシドリがカンヌキを押し、ツヅミ車がキチ車から離れ、小鉄車と噛み合うことで時刻合わせを可能にする。
か行
角穴車
ゼンマイを巻き上げるときに重要な役割を果たす歯車。強い力がかかるため、真軸としっかり組み合わさるように中央の穴が角形になっている。
角穴ネジ
角穴車を香箱真に留めるためのネジで、香箱真と同軸上にある。ドーム型や面取りされたもの、締め込んだ状態で角穴車の面と同じになるものなど形状もさまざまある。
カナ
歯車の軸まわりに設けられた小さな歯車のこと。歯車とカナは同時に回転するが、各々異なる別の歯車やレバーと接触している。これにより動力の伝達と速度の増減が可能。
ガンギカナ
ガンギ車の軸まわりにある小さな歯車で四番車と接する。四番車から伝わったゼンマイの動力でガンギ車を回すなどの役割を担う。
ガンギ車
脱進機の1パーツでテンプに一定の力を与えて左右に回転運動させるのと同時に、テンプからの規則正しい振動周期を歯車列に送り、基本的な運針ペースを制御している。
緩急針
ひげゼンマイに接しており、これを左右に移動させることでひげゼンマイの有効な長さが微調整でき、結果、進み・遅れが調節できる。その多くは緩急針移動用の調節レバーを付加しているが、これがないムーブメントもある。またロレックスのムーブメントでは緩急針に加え、テンプ外輪のアジャストスクリューネジで精度調整できる。
カンヌキ
ツヅミ車と噛み合うように差し込まれているパーツ。時刻合わせの際、リューズを引き上げる力をオシドリを通して受け、ツヅミ車と小鉄車を連絡させる。その逆の働きもする。
キチ車
巻き上げ輪列の1パーツ。リューズを巻くとこの歯車が回り、丸穴車が回転してゼンマイが巻き上げられるしくみになっている。
コハゼ
爪形の部品のこと。歯車などの逆回転を防ぐ役割をする。
さ行
三番車
基本輪列(表輪列)の1パーツで、二番車からの動力を四番車に伝達する増速歯車。
地板
ムーブメントにおける機械体を組み上げるための金属板のこと。多くのパーツがこの地板と受け板との間に収められている。
振動数
ビートともいう。テンプなどの振動体が揺れる回数のことで、「回/時間」、「振動」、「Hz(ヘルツ)」などの単位で表わされる。例えば、1秒間にテンプが5回振動する時計なら、5振動=2.5Hz=1万8000回/時間となる。基本的には振動数が増えれば時計の精度は向上するが、同時に摩擦などによる部品の摩耗が激しくなり耐久性が落ちる。ロービートでも高精度な時計もあるので、ハイビート=高精度とはいいきれない。
た行
脱進機
機械式ムーブメントの制御装置のこと。ゼンマイのエネルギーが一度に放出されるのを制御し、同時にそのエネルギーをテンプの規則正しい往復運動に変換させるための装置で、ガンギ車とアンクルから構成されている。
調速機
テンプ、ひげゼンマイなどから成る。ゼンマイ動力の瞬時の放出を抑えて一定の速度に制御し、その動力を再び脱進機に戻す機構。
チラネジ
バランススクリューともいう。微妙に振動運動するテンプのバランスを均一に調整するため、テン輪に取り付けられた複数の微小ネジ。古典的なムーブメントに多用されたが、現行ムーブメントではほとんど見られない。
筒カナ
長・短針が装着されたカナで、二番車と同軸上にある。運針時、筒カナは二番車と一緒に回転するが、時刻合わせ時にはその内側がスリップして、独自に回転する。
ツヅミ車
形が楽器の鼓に似ていることから付いた名称。一方の端にはノコギリの歯状の斜めの歯が付いていて、キチ車の同型の歯と噛み合う。反対側には剣回し(時間を合わせるために針を回すこと)のための歯車と噛み合う歯が付いている。
爪石
アンクルのアーム先端に取り付けられた石(人工ルビーが多い)で、ガンギ車の歯と噛み合っている。
テン真
テン芯とも書く。テンプの円滑な振動などの役割を担う、先端の鋭く尖った真棒で、テンプの中心部に取り付けられており、その両先端は耐震軸受けと接触している。
テンプ
テン輪やテン真・振り座・振り石などから構成され、そこに取り付けられたひげゼンマイとともにアンクルから伝わる反復運動を一定速度の振動に変換する、いわゆる調速を行う、ムーブメントの要ともいうべき部分。その多くは緩急針をもっている。
テンプ受け
テンプの軸受けで、テンプの動きのブレを抑えるために裏蓋側に取り付けられたプレート。緩急針と緩急座(テンプ上座、テンプ上受け石ともいう)がこれに組まれる。
な行
日差
時計の1日の進み・遅れの度合いを表す用語。平均的な日差は機械式時計で10~20秒、音叉時計で2秒、クォーツ時計で0.01~0.5秒。また、同じ姿勢、温度で測定した連続する2日間の日差を日較差という。
二番車
香箱からの動力を増速させ、それを三番車に伝える歯車で、多くはムーブメントの中央に位置する。1時間に1回転し、分針と同軸となる。
は行
バネ棒
ケースにベルトやブレスレットを固定するための棒状の部品で、伸縮するようにバネが内蔵されている。
ひげゼンマイ
テンプに装着された細いひげ状のゼンマイ。弾力があり、アンクルから伝達された反復運動を、その弾力を利用して一定の振動周期に変換し、テンプを動かす。
ひげ持ち
ひげゼンマイの外側にあり、ひげゼンマイとテンプをつなぐパーツ。接触位置を動かすことでひげゼンマイの「有効長さ」を調整できる。
歩度
時計の進み・遅れの度合いのこと。1日あたりに換算したものを日差、1カ月あたりを月差、1年あたりを年差という。また、歩度の調整を歩度緩急といい、機械式の場合、多くはひげゼンマイに付いた緩急針の操作で行う。
ま行
巻き真
巻き芯とも書く。リューズを巻く際、巻き真と、その先のキチ車が回転。さらに丸穴車や角穴車などに伝達され、ゼンマイが巻かれる。
丸穴車
巻き上げ機構の1パーツで、キチ車と噛み合っており、リューズが巻き上げられる際に回転し、角穴車や、その先の香箱などを回す。
や行
四番車
三番車とガンギ車をつなぐ歯車で、通常60秒で1回転する。スモールセコンド付きの時計では、この歯車とスモールセコンドの秒針は同軸となる。
ら行
リューズ
ゼンマイの巻き上げや時刻調整などに用いられるパーツ。ノーマルとねじ込み式に大別できる。
輪列
互いに噛み合って連動する歯車やカナなどから構成される伝達機構。 香箱から四番車までの増速輪列(表輪列)はその代表格。ギア・トレインともいう。
※テキストは世界文化社『傑作腕時計年鑑2006』からの引用もっと知りたい方はこちら!
『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ【複雑時計編】』
定価:2,420円(税込)
発⾏・発売:株式会社世界⽂化社
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