オーデマ ピゲは、ブティックとはまた違った顧客とのコミュニケーションの場となる「AP ハウス」を、世界19都市で展開している。日本にも東京ミッドタウンにあり、ここでしか買えない限定モデルも度々登場しているが、真の目的は販売ではなく、「第二の我が家のような居心地の良さと、人々の絆を最も大切にした空間を提供する」こと。
そのコンセプトは、創業者ジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲが、もしも現在を生きていたら、顧客とどう関わるだろうかと想像した結果、生まれたという。その第一号店は、2017年にイタリア・ミラノで誕生した。それが今年の3月、高級ショッピング街モンテナポレオーネにほど近いバグッタ通りに位置する、1939年にミラノ初の複数階式駐車場として建てられた旧ガレージ・トラヴェルシに移転・新装開業した。
歴史的建造物の5フロアを使った総延床面積は、1600平米以上と「APハウス」最大。各フロアをヒゲゼンマイを模した螺旋階段がつなぐ空間構成と内装デザインは、イタリア建築界の巨匠ピエロ・リッソーニが率いる「リッソーニ&パートナーズ」が手掛けた。
家具やグラフィックの作品も持つリッソーニは、スイスのジュウ渓谷を想起させる木や石といった自然の素材や、金属やガラスといった時計を構成する素材を操り、さまざまに異なる印象の空間をいくつも作り上げてみせた。それらには、八角形やタペストリーといった、「ロイヤル オーク」を象徴するディテールが多用されている。
レコードコレクションと自動演奏ピアノによる音楽が各フロアに流れ、現代アートのギャラリーを併設し、フォーシーズンズ ホテルと提携したドリンクや軽食も提供。五感で楽しめる「AP ハウス ミラノ」は、ミラノを象徴するドォーモの尖塔をテラスから望める絶好のロケーションも魅力だ。
3月4日には、世界中からメディア関係者を招き、生まれ変わった「AP ハウス ミラノ」がお披露目された。さらに同日、2021年にスタートしたメゾン独自の新作発表会「APソーシャル クラブ」も開催。次々と披露される新作の中で、トリを飾ったのは、ギタリスト/シンガーのジョン・メイヤーとのコラボモデルであった。しかもメイヤー本人が登壇し、対談形式でプレゼンテーションを行ったのだ。彼が登場した瞬間、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
時計コレクターとしても名高いメイヤーがデザインした「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー“ジョン・メイヤー”」最大の特徴は、無数の突起が光を乱反射して煌めく「クリスタルスカイ」と名付けたダイヤル。これは当初、自分のためのユニークピースとして2021年に考え付き、実際にオーダーしたのだという。しかしそのデザインを見た前CEOのフランソワ-アンリ・ベナミアスから、「ぜひ、限定モデルとして出したい」と提言され、コラボモデル誕生と相成った。
ほかにもオーデマ ピゲ独自の新18Kサンドゴールドを初採用した「ロイヤル オーク」の新作や、久々に「ロイヤル オーク オフショア」のラバーベゼルが、シンプルな3針モデルとして再登場するなど、今年の新作は素材使いで魅せるモデルが散見できた。特に淡いサンドベージュカラーを浮かべるサンドゴールドの新作は、強い光を受けると色が消え去りシルバーカラーに見えるというのが、実にユニークである。
「APソーシャル クラブ」開催の冒頭、新CEOのイラリア・レスタは、「今年はマテリアルとシェイプがテーマ」だと語っていた。今後登場するであろう、斬新なシェイプの新作にも、期待が膨らむ。
取材・文=高木教雄