傑作時計の肖像
時差を跳躍する麗しき旅時計の顔。
PATEK PHILIPPE[5224]
複雑機構時計とは思えないほどシンプルな「5224」だが、思わず目を奪われる華麗さも宿している。澄み渡ったネイビー文字盤、ローズゴールドを丹念にポリッシングし、手仕事で植字したインデックスの輝きなど、細部にまで贅を尽くした作り込みがオーラの源だ。
パテック フィリップ
5224
自動巻き。RGケース。径42mm。カーフストラップ。3気圧防水。865万7000円(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター)
時計師の叡智を結集した洗練の複雑機構
パテック フィリップが世界最高峰と称される理由はシンプルだ。最高の美しさと、最高の技を有しているからである。その白眉となるのが、精力的に製作する複雑機構時計。今年もメンズでは5型のグランド・コンプリケーションウォッチと4型のコンプリケーションウォッチが発表されたが、なかでも話題を集めたモデルのひとつが「5224」だ。
本作では、パテック フィリップの特許取得機構としてかねてから人気を博してきた「トラベルタイム」のさらなる進化が実現されている。ふたつの時針をもち、異なる2ヶ所の時間帯を同時に表示可能な“デュアルタイム機構”のひとつであるトラベルタイム。ケース左側のプッシュボタンを押すことにより、ワンタッチでローカルタイム(メインの時針)を1時間ずつ移動できるのが大きな特徴である。しかし、「5224」ではこのプッシュボタンを排除。リューズを中間地点まで引き出すことでローカルタイムを前進・後退できるシステムに変更した。これにより、操作性の高さを維持しつついっそうシンプルで研ぎ澄まされたデザインへと進化を遂げたのである。
さらに本作が新しいのは、“12時位置に正午を置いた24時間表示”であることだ。ホームタイムの昼夜を区別できるようにするため、12時間ではなく24時間で時針が一周する24時間表示機構。一般的には12時位置に24時、6時位置に正午(12時)を設定するものが多いが、「5224」ではその配置を逆転させているのが大きな特徴である。24時間表示機構の採用により、昼夜の別を示すインジケータが不要になりすっきりとした顔つきを獲得。さらに12時位置に正午を置くことで、視認性も向上させているというわけである。
本格時計好きにとってはいわずと知れた「カラトラバ」ケースを採用する本作。極めてシンプルにして、完璧な美しさを備えたケースの造形が誕生時からのアイデンティティとなっているわけだが、「5224」もその名を冠するにふさわしいミニマルな美しさをたたえている。複雑機構でありながら一見そうとは思えないほどシンプルで、それゆえに極めて高いエレガンスを放つ。新開発ムーブメント「31−260」はプラチナ偏心マイクロローターを備えた超薄型で、ケース厚を9.85mmに抑えている点も特筆に値するだろう。
複雑なことをシンプルに表現するのは何より難しい。一切の誇張を排した複雑時計「5224」の顔つきは、パテック フィリップが180年以上にわたって磨き続けてきた叡智の結晶といえよう。極めて精緻にして、どこまでも軽やか。“洗練”とは、本作のためにあるような言葉だ。
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[MEN’S EX Winter 2024の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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