「腰周りの吸い付き方」が癖になる! ナポリの手仕事パンツの魅力

bool(false)
Facebook
Twitter
友だち追加

リングヂャケットのディレクター奥野剛史が
イタリアのモノ作りを自らの言葉で語る

奥野剛史のナポリ手記バナー

[Pants(パンツ)]編

長年人気を誇るスラックス
各8万8000円/リングヂャケット ナポリ(リングヂャケットマイスター206 青山店)

長年人気を誇るスラックスは、ナポリならではの手仕事による柔らかな表情が特徴の2プリーツ仕様。程よく深い股上と、ゆとりを持たせたテーパードラインがモダンな雰囲気に。ベルトレスのサイドアジャスター仕様で、腰回りがすっきり収まる。

「とにかく腰回りへの吸い付き方がありえないほど柔らかい」

観光ガイドブックにも「危険なので近寄らないで」と書かれているエリアに、幾つか腕の良い工房がある。私自身は、幸いこれまで大きな事件に巻き込まれていないが、生粋の地元民であるナポリの友人の、「自宅に帰ったら突然ピストルを突き付けられて時計を盗られた。今思い出しても腹が立つっ!」なんて物騒な話も聞く。日中はスリなどに用心していれば大丈夫だと思うが、夜の一人歩きは極力避けた方が無難だ。

そんな地元の人しか行かないような裏通りにひっそりと工房を構えるのが今回のパンツ専業一族だ。これは実は、意外と知られていないことだが、ナポリのサルトリアであってもジャケットは自分の工房で作るが、組下は専業のパンツ職人に作ってもらうのが一般的なのである。ここでも、ナポリ最高峰と呼ばれているサルトリアのパンツを製作している現場を幾度となく見てきた。

兄が裁断と縫製を行い、弟がプレスを担当する。そして、親戚のおばちゃんたちが、釦ホールを……、といった具合に一族総出でパンツを作っている。5kgもある重いアイロンを駆使しながら生地を曲げて行く様子は圧巻だ。直線的だったパンツが、みるみる立体的なカーブを描くようになる。型紙、縫製、プレスと、それぞれが高次元で融合したパンツのみに備わる独特のオーラがこのパンツにはある……、というのはあながち大袈裟な表現ではないと思える。

重い重いアイロンを使って、一心不乱に生地を曲げていく
重い重いアイロンを使って、一心不乱に生地を曲げていく。独特のフィッティングと丸みがあって、包み込まれるようなシルエットはこの技があって初めて実現する。

語り所は他にも沢山あるのだが、最もシンプルに分かりやすいのは、「腰回りへの吸い付き方」だ。この独特のフィッティングの虜になるお客様も多く、店頭でお会いした際に「もう他のパンツが穿けなくなってしまったじゃないか、どうしてくれるんだ(笑)」と言われたこともあるくらい。その秘密の一端は、ウエストの帯の部分にある。既製品では、仕上がった時に指定寸法通りであることがとても重要視される。なので、生地が動いて伸び縮みしやすい腰帯部分は、接着芯で固めるのが一般的。生地が安定し、指定サイズに仕上げやすいからだ。しかし、そのデメリットは、やはり接着芯を使うことで、帯部分が多少硬くなってしまうことだ。

裁断はすべて手作業で行う
裁断はすべて手作業で行う。荒々しいハンドステッチや柔らかい独特の縫い方もこの工房の持ち味だ。

ところが、オーダーの概念しかないこの工房では、接着芯を貼って安定させることよりも、生地本来の風合いを重視する。「生地なんて動くのが当たり前だろ。何を言っているんだ。大きかったり、小さかったりしたら、直しに出せばいいだけだろ」と、こともなげに言う。確かに、ここのパンツは仕上がってきた時に寸法誤差が多少ある。いや、結構あるときの方が多いくらいだ。でも、そんなことは些細な問題。直せばいい、だけのこと。この病みつきになるパンツを穿けるのだから。

ウエスト回りをしっかりホールドしてくれるパンチェリーナ仕様

ウエスト回りをしっかりホールドしてくれるパンチェリーナ仕様。各所のステッチはもちろん、ボタンホールまで手縫い。通常よりも生地を多く使用した腰裏の太いマーベルトは、タック入りになっていることで動きに対して過度に引っ張られたりせず力が逃げるので穿きやすい。これがナポリパンツの真骨頂だ。


奥野剛史さん

Profile
奥野剛史
リングヂャケット ディレクター

「職人技・他にない・唯一」と聞くと居ても立っても居られない偏愛型洋服屋。ナポリの職人技が大好物。



[MEN’S EX Spring 2023の記事を再構成]
※表示価格は税込み。

2024

VOL.341

Spring

  1. 1
LINE
SmartNews
ビジネスの装いルール完全BOOK
星のや
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE
pagetop