ユナイテッドアローズ クリエイティブ・アドヴァイザー鴨志田康人さんが語る「クラフツマンシップ」とは?

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それは、日常に寄り添うラグジュアリー
美しきクラフツマンシップ。

美しきクラフツマンシップ。バナー

talks about “Japanese artisans”
Yasuto KAMOSHITA

長き時を経て、作り手が込めた真意が現れる。それこそが醍醐味

ファッションの目線で“クラフツマンシップの象徴”を挙げてほしい。そうリクエストいただいて、今回は日本のアルチザンが仕立てたスーツと靴を選びました。僕にとっては、少々冒険したチョイスといえます。というのも、クラフツマンシップを語るうえで歴史の存在は不可欠。かたや日本の洋装文化はわずか100年あまり。はたして海外の逸品と同等に“日本の洋服”のクラフツマンシップを語れるのだろうか……と初めは思いました。それでもあえてこの選択に至ったのは、日本職人がもつ美意識に対して大いに感ずるところがあるからです。技術のみならず美意識を磨き上げることを重んじる日本人のDNAは、他国の文化である洋服の中にもきっと特別な輝きをもたらしているはず。この機会に、“日本の洋服”のクラフツマンシップを改めて考えてみたいと思ったのです。

クラフツマンシップとは何か? 非常に難しい問いですが、ひとつ言えるのは、“微細な美”の集積であるということでしょう。ミース・ファン・デル・ローエの「神は細部に宿る」というあまりに有名な言葉が示すとおり、全体の美しさはディテールひとつひとつの仕上げにかかっています。その点、日本職人の真骨頂は“削ぎ落とされた美しさ”の表現力。釘を1本も使わずに建物を造る宮大工の技などはその最たるものでしょう。チッチオにも同じ方向性を感じていて、ベースはナポリ仕立てなのに細部は非常に精緻。そして全体としては研ぎ澄まされたミニマリズムを感じさせます。このストイックさがチッチオの服に類い稀な個性を生んでいると思いますね。

一方で日本人の感性は、古来より異文化の混交を得意としています。スピーゴラの鈴木幸次さんにはこれまでかなりワガママなオーダーをしてきたのですが(下画像参照)、彼は見事にそれを咀嚼して、素晴らしいバランスに仕上げてくれました。海外のシューメーカーに同じことを依頼しても、まずこうはいかないでしょう。私のイメージを解釈し、自らの作風に投影するセンスと技術。彼のような人とは“一緒にものを創り上げている”一体感を味わえて、それが本当に楽しいのです。冒頭申し上げたように、こと洋服に関しては、日本に古来からのルーツと呼べるものはありません。しかしだからこそ、日本人が得意としてきた“ミックスの妙技”を、クラフツマンシップにおいても遺憾なく発揮できるのでしょう。

クラフツマンシップというと、そのストーリーやロマンがポエティックに讃えられがちですが、最高峰の職人技はそう簡単に語り尽くせるものではありません。新品の状態でも確かに素晴らしさは感じられるのですが、それはまだほんの表層。僕は1994年に初めてリヴェラーノの服を仕立てたのですが、30年間着続けてようやく“これがリヴェラーノの魅力だったのか!”と膝を打った経験もあります。それは服だけでなく、家具でも骨董品でも同じことですし、あらゆる国のクラフツマンシップにあてはまること。たとえば、数奇屋造りの日本家屋が数百年の時を経て滲み出るような風格を醸し出すのも同じことです。クラフツマンシップとは細部の美の結晶であり、一流の職人はあらゆる細部に自らの美意識を込めてものづくりを行います。その大部分は、新品のときにはまだはっきりと見えません。しかし時を経るうちに、奥深くに秘められた美意識が表に現れてくるのです。いわば“作り手の真意”とも呼べるもの、これこそがクラフツマンシップの核心であり、醍醐味だと思います。

チッチオのスーツはまだ仕立て上がったばかり。スピーゴラの靴も、まだ内奥の美がチラリと覗き始めた程度です。もうしばらくして現れる、彼らの真意とはいかなるものか。今から楽しみでなりません。(談・鴨志田康人)

チッチオのスーツとスピーゴラのシューズ

スーツは2021年に仕立て上がったチッチオ。「基本的にハウススタイルでお願いしました。生地は墨黒のモヘアウール。英国生地ですね。普段使いも冠婚葬祭にも着られる控えめなスーツにしました」。スピーゴラはこれまで4足ビスポークしているそう。「左は’50年代のアメリカンシューズをイメージして7年ほど前にオーダーしました。右は10年ほど前に仕立てたもので、これはロンドンのクラシックなビスポークシューズからインスピレーションを得ています。どちらも鈴木さん本来のスタイルとは少々異なるのですが、僕のリクエストを絶妙に汲み取ってくれて、かつ彼の美意識のもとで形にしてくれました。さすがの手腕ですね」

鴨志田康人さん

鴨志田康人
1957年生まれ。ビームスを経てユナイテッドアローズに創業メンバーとして参画。現在は同社クリエイティブ・アドヴァイザーほか、ポール・スチュアートの日本におけるディレクターも務める。




[MEN’S EX Spring 2023の記事を再構成]

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