TIMELESS ICONS
一流メゾンの「一生アイコン」物語
創業から長い歴史を持ち、世界中から一流メゾンと称されるラグジュアリーブランドには、長年愛され続けるアイコン的存在がある。そんな「一生アイコン」の、誕生から未来へ向かうストーリー。
[Scritto]BERLUTI(ベルルッティの[スクリット])
美しき文字は磨き、愛でることで生涯の友になる。
「靴を磨きなさい、そして自分を磨きなさい」──ベルルッティの4代目であるオルガ・ベルルッティがそう語ったのは有名な話だ。磨くことで美しさを放つ靴は世の中にたくさんあるが、ベルルッティの靴はその真骨頂といえる。
イタリアからパリへ渡りビスポーク靴を作り始めた初代アレッサンドロが、自身の名を冠したレースアップ靴を作ったのは1985年のこと。その後、工房兼ブティックをパリに立ち上げた2代目トレッロ、高級既製靴を始めた3代目のタルビーニオに続き、その歴史を大きく塗り替えたのが初の女性トップとなった4代目オルガであった。
最初にスクリットが使われたモデル「Olga III」(オルガ・トロワ)。デザインは大定番のアレッサンドロを踏襲しつつ、木型が現行のものと微妙に違うのでそう呼ばれている。
発色に優れたヴェネツィアレザー、そこに色を塗り重ね独自のグラデーションを表現したパティーヌ、それに加えカリグラフィーの手紙のようにレザーに文字を刻んだ「スクリット」の技法は、伝統的な紳士靴の世界の常識を覆した革命的イマジネーションといえる。
オルガが考案した「スクリット」という発想の源は、18世紀の公正証書だったという。ラブレター? または小説の一部分? その美しい文字は見る人の想像力を掻き立て、諸説がまことしやかに囁かれてきたが、要するに彼女が心惹かれたのは“内容”よりも、職人の手触りを感じさせる“美しさ”だったのであろう。
スクリットのイメージの源となったのが、オルガが見つけた「18世紀に書かれた公正証書」の原本。「内容がなんであれ、その美しさに変わりはない」というのがその心だ。
ひとつひとつ心を込めて書かれた手紙の如く綴られたスクリットのデザインは、パティーヌの濃淡とともに靴の側面に奥行きを表現し、時を経ても磨くほどにさらなる美しさを放つのだ。
スクリットのアイコンは時代に合わせてドレス靴の世界を飛び出し、洋服や鞄、また革以外の素材にもその世界観を広げていった。2022年夏に登場した「スクリット アラベスク」は、3色の糸を使いジャカードでスクリットを織り込んだ作。表面にコーティングを施すことで、軽さと耐久性も生まれた。
1960年代、パリでオルガと深い親交があったアンディ・ウォーホル自身が撮った、オルガの貴重なポラロイド写真。彼とのコラボ「アンディ」ローファーは名作中の名作となった。
一生大切にしたいものを磨くこと、愛でること。それは素材が変わっても生き続ける、ベルルッティからのメッセージなのだ。
お問い合わせ先
ベルルッティ・インフォメーション・デスク TEL 0120-203-718
[MEN’S EX Autumn 2022の記事を再構成]
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