綿谷画伯のコンサバお洒落妄想旅計画
家に籠る時間が増えると、自ずと旅への想いが募るもの。訪れたい地へ想いを馳せれば、何を着ていくか、何が食べたいかと、そこでの楽しみ方が浮かんでくる。取材に遊びに、国内外のあらゆる地へ足を運んだ、画伯が思い描く、とっておきの旅計画を参考に、ぜひ貴方も自身の旅の妄想を膨らませて欲しい。
ロンドン最古のレストランでジビエ食事旅
重厚な絵画や剥製の中で食べるひとりダウントン・アビー
夏の間うっそうと生い茂っていた河川敷の草藪が枯れ始め、辺りの視界がひらけてくると“あー、もう狩猟シーズンだなぁ”と、いまだ心がときめく。
狩猟をやめてずいぶん経つけど、夢中になっていたころは鳥猟犬のトレーニングと称して、うちからほど近い多摩川河川敷の草藪の中を犬とよく歩き、時折り姿を現わすキジに興奮したものだ。
鳥猟って犬との共同作業で、いくら鉄砲の腕前がよくても犬が働いてくれなければ猟にならないし、逆もまた然り。それだけに犬と一心同体となり見事鳥を仕留めたときの喜びといったらそれはもう。
獲った鳥はしばし熟成させてから解体し、ローストにしたり鍋にしたりして、自然の恵みに感謝して手を合わせ家族みんなでありがたくいただく。犬にも頑張ったご褒美に少し分けてね。
そんな経験もあって、狩猟シーズン(11月中旬から1月中旬)に入るとジビエ料理が恋しくなる。
ロンドンのコベントカーデンに「ルールズ」というレストランがある。ここは1798年に開業したロンドン最古のレストランで、伝統的イギリス料理を提供するが、なんといってもここの名物メニューはゲーム(狩猟された鳥獣肉のことで、フランス料理でいうジビエ)。キジや鹿肉、うさぎはもちろんのこと、日本ではなかなかお目にかかれないヤマシギやライチョウなども味わうことができる。
で、料理もさることながらここはクラシックなインテリアも魅力の一つなんですね。壁一面に飾られた絵画や鳥獣の剥製、調度品の数々は、本物だけが持つ重厚感に溢れてます。若き日のラルフ・ローレンは、自分の店をルールズみたいなインテリアにしたかったんだろうな~と、妄想してしまうほど。貴族社会をテーマにした大人気ドラマ『ダウントン・アビー』のロケ地として使われたのも納得。
そんな重厚で高級感溢れるルールズだけど、ドレスコードは“スマートカジュアル”とある。つまり“ジャケットやネクタイまでは不要ですが、小ざっぱりした格好でいらしてね”ということ。とはいえ、そこは元狩猟家の日本男児。本場でナメられまいと、今ならグレーヘリンボーンツイードで仕立てたノーフォークジャケットをラフに羽織り、入店するや否や、被っていたトリルビーハットを手慣れた手つきでクルクルッと丸めてジャケットのアコーディオンポケットに押し込み、そそくさとバーコーナーで食前酒を一杯……。
と、街場のそば屋で鴨南蛮を前に妄想しながらまた野生の真鴨が食べたいと思う今日この頃。
冬に向けて只今、グレーヘリンボーンのツイードでノーフォークジャケットを製作中。このツイード地がなんと原毛から織り上げまで純日本製という珍しいもの。今どきのハリスツイードは打ち込みがソフトで軽いけど、長年着込むとどうしても毛玉が気になってね。でも昔ながらの製法で織る日本製はコシがあり重く、ヴィンテージのような味わいがあるんだ。完成したらMEN’S EX ONLINEの記事でご紹介しますね。どうぞお楽しみに。
[MEN’S EX Winter 2022の記事を再構成]