ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第51弾は……?
【中村アーカイブ】 vol.51 / ビームスFのコットンツイル ブリーフケース
1999年に購入しました。’90年代前半頃までは英国やアメリカのブランドでゴム引きのコットン生地を使ったバッグが展開され、日本でも多くのショップで見ることができました。
英国ブランドではBRADY、JOHN CHAPMAN、JABEZ CLIFF、アメリカブランドではTRAFALGARやそこから派生したGURKHA、BRITISH KHAKI、COACH、フランスブランドではUPLA等々、多くのブランドがそのようなバッグを展開し、トラディショナルなスタイルを好む人たちの間で人気となっていました。
BEAMSの歴史を振り返ってみても、上記のいくつかのブランドを展開していたので、’80年代や’90年代のセレクトショップには欠かせないアイテムだったと言えるでしょう。
’90年代半ば頃になると、英国ブランドは別注などの小回りが利かなくなり、アメリカブランドは生産を他の国に移すなど、そのようなバッグを取り巻く状況も変化していきます。
そのような生産背景とインポートブランドの価格上昇も重なり、なかなか思うようなものが出来なくなり始めた頃に日本のあるメーカーからインポートブランドを超えるクオリティーのバッグを日本で作らないかという話があり、一から作り上げたのがこのブリーフケースです。
生地は厚手のコットンツイルのゴム引きを使い、レザーは100%タンニン鞣しのブライドルレザー、金具は最高級のブラスを使い値段は4万円台という、当時のインポートブランドでは実現できないクオリティーと値段を実現したバッグでした。
’90年代後半と言えばイタリアンクラシックの流れが加速していた時期で、このようなクラシックでカジュアルなテイストのブリーフケースを展開するにはギリギリの時期でしたが、もともと英国やアメリカのトラディショナルなテイストを好むBEAMSのお客様からは大好評で、2000年代に入っても人気は継続しヒットアイテムとなりました。
当時はこのバッグをコピーしたバッグをよく見かけました。特にどこかの量販店がコピーした安っぽいレザーとナイロン素材の中国製のコピー品をビジネスマンが持つ姿を街中や電車の中でよく見かけました(苦笑)。
本物よりコピーを多く見るというのは、自分が企画したバッグのデザインがそれだけ良いものだったと、今となってはポジティブにとらえることができます(笑)。
今見ても素材、縫製、デザイン、すべてに拘って作られた完成度の高いバッグです。おそらく今これと同じクオリティーのものを日本で作れば値段は倍近くになると思います。
私個人のアーカイブとしてだけでなく、BEAMSにとっても日本製でこれだけのクオリティーのオリジナルを作っていたという証になるアーカイブであると思います。
BEAMS Fの日本製のオリジナルを語るうえでも後世に残していきたいアーカイブです。