繊細にして華麗な時計芸術
グラスヒュッテ・オリジナルの今年の新作の中でも、この「パノインバース・リミテッド・エディション」は時計としてのメカニズムの美しさに加え、プレートの表裏に細やかなエングレーブで植物紋を彫り込んだ、工芸芸術作品としての素晴らしさを演出していて見事である。
歯車を支えるルビーを、その植物の花や実のようにとらえた姿は、繊細にして華麗なもので、この時計を特別なものとしているのだ。
パノのシリーズには、脱進機を時計の表側にセットしたものがこれまでにもあったが、それは通常のムーブメントのほとんどが、片持ちのバランス・ブリッジを採用しているのと異なり、このモデルでは両持ちのバランス・ブリッジを採用し、さらにその両側にスワンネックと呼ばれる緩急針をコントロールする部品を持つもので、これにより高精度を実現しているのだ。
ドイツの時計に特徴的な4分の3プレートのムーブメントに、この特徴的な脱進機を持つ時計は、時間を読み取る部分が文字盤の左寄りに配置された、アシンメトリカルなデザインなのだが、そのムーブメントの空白の部分を埋めるように、唐草模様をエングレーブするという試みによって、今までにない美しい姿を得ることができたのであった。
このムーブメントは、エングレーブや青焼きしたブルースティールのネジ、そして穴石のルビーにより華やかさを持つ時計として仕上げられたものだが、それは装飾の美を競い合った、ポケットウォッチ全盛時代を思い起こさせてくれるもので、この時計を腕にする人に無上の喜びを与えてくれるものだと確信した。
そしてこのモデルのケース素材はプラチナによるもので、生産数もわずか25ピースだというから、生まれついてのコレクターアイテムとして、大切に扱われ続けるに違いない。