自身の生活に沿ったモノ選びが、あらゆるモードにもまして価値を帯びるようになった平成。エルメスは様々なアイテムを生み、新しい価値を創造してきた。紳士のライフスタイルに寄り添い、美しく彩る名品の数々にフォーカスしながら、あらためてエルメスというメゾンを振り返る。
BRIEFCASE
不朽の名作を、よりスマートな薄マチに
コンパクトな生き方にこそ、いっそうの美意識を
大きな鞄にありったけのギアを詰めて持ち歩くスタイルがもて囃されたり、反動から軽やかなコンビスタイルの鞄が流行したり。振り返れば平成の鞄シーンにも、種々変遷があった。そしてガジェットの小型化が進んだ今、過剰を嫌う価値観の台頭で浮かびあがった鞄トレンドが、最小限の荷物のみを持ち運ぶ、コンパクトなスタイル。1928年生まれのロングセラーを薄マチにした、エルメスの「サック・ア・デペッシュ」ライトは、その最高峰をなす名品である。
魅力は、品行方正でいてお堅くない、直線と曲線が織りなす研ぎ澄まされた造形美にある。薄マチゆえ、現代の軽快かつスマートなスーツの装いにも馴染む。コンパクトな生き方にこそ、いっそうの美意識を——。鞄というよりクラッチ感覚の名作は、我々にそうメッセージを投げかける。
2017年に登場した、コンパートメント1室の「サック・ア・デペッシュ」ライト。こうも優雅な表情でいて、そもそもはフランスの小学生の鞄に想を得たデザインという逸話も興味深い。素材は端正なシボ革のヴォー・トーゴ。
定番の「サック・ア・デペッシュ」
2室デザインの定番は、かのケネディも愛用した。縦29×横38×マチ10cm。91万1000円(エルメスジャポン)