SIHH 2018 DAY 1
憧れのマルティーズ・クロスが百万円台前半で
2018年SIHH初日の最初の取材ブランドは、1755年創業のジュネーヴ時計の老舗である、ヴァシュロン・コンスタンタンだ。
今年このメゾンがニューコレクションとして打ち出したのが「フィフティーシックス」という、シンプルな三針や、デイ・デイト、ムーンフェイズ付きのコンプリート・カレンダーなど一連のモデルだ。モデル名からわかるように、この時計のデザインは、ヴァシュロン・コンスタンタンが1956年に発表した人気モデルにちなんだもので、ラグの形がマルタ十字の一辺になっているというものである。
そしてこのシリーズにはステンレス・スティール製のケースを与えられたモデルが用意されており、最もシンプルなセンター・セコンドの三針モデルの価格が133万円(予価)と、最近の同社の新作の中では破格の物と設定されていて話題を呼んだのである。
このシリーズのムーブメントはリシュモン・グループが製造する汎用ムーブメントで、ジュネーヴシールも取得してはいないそうだが、同メゾンの時計が高嶺の花だと考えていた時計ファンにとってはうれしい価格設定だといえるのではないだろうか。
戦後の機械式腕時計の黄金期であった1950年代には、通常の時計はジュネーヴシールを取得しないものが多く、特別なクロノメーター級の精度を持つモデルくらいしか、ジュネーヴシールを持つ物がなかったのである。
もちろんこのシリーズの仕上げぶりは、さすがの老舗のそれであり、百万円台前半で憧れのマルティーズ・クロスを冠した時計が手に入るチャンスだといえるだろう。
老舗らしい時計芸術と超絶技術の世界を堪能
このほかオーヴァーシーズからは、「エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー」の18KPGモデル(予価845万円)が追加されたが、この時計はスポーツ・モデルでありながら、ケース厚がわずか8.1mmという薄さで、装着感がよさそう。

毎年ヴァシュロン・コンスタンタンが力を入れている、工芸的な技術の精華である「メティエ・ダール」には、「アエロスティエ」という、熱気球をモチーフにした時計が発表された。
1783年から1785年にかけてフランスにおいて、空を飛ぶことへの情熱が実り、モンゴルフィエ兄弟などによって熱気球がパリの上空へと飛行したのだった。
空への情熱を讃えて作られたこの特別なモデルはパウンス装飾と呼ばれる、とても立体的なエングレーヴィングで気球を再現し、背景にはプリカジュール・エナメル技法の半透明や透明のエナメルによる青空と雲が描かれている。そしてその透明の部分を窓として、時、分、日付、曜日が表示されるというものだ。
また特別注文品を製作するレ・キャビノティエのアトリエが完成させた、両面の文字盤に16もの機能を持つ、超絶コンプリケーション腕時計(レ・キャビノティエ・グランド・コンプリケーション・クロコダイル、同オーナメンタル)も展示され、来場者に歴史あるメゾンの底力をアピールしていた。

Profile
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。SIHHは初回から欠かさず取材を重ね、今年で28回目。
撮影/岸田克法 文/松山 猛