「限局性激痛」展でさらされる、女性作家の赤裸々な恋愛体験とは?

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近頃、エグゼクティブの間でますます話題のアート。知識を広げ、ビジネス会話を広げるためには、アートの「用語」にも精通しておきたい。

ソフィ・カル
2020年末に閉館が決まった洋風の元私邸、原美術館で、20年前に開催し大きな反響を呼んだソフィ・カルの個展をフルスケールで観ることができる。設えられたインドのホテルの一室も作品の一部だ。
Sophie Calle
Exquisite Pain, 1984-2003
c Sophie Calle/ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

“トレース”【ビジネス”ART”会話#12】

未完の恋愛を美しいアートに昇華する、女性作家の機微

「トレース」は”跡を追い確かめる”という意味。アートやデザインの現場で「トレースする」といえば、絵の上に薄い紙を重ね、透けて見えるイメージをなぞることを指す。フランスを代表する女性現代美術家のソフィ・カルは、見知らぬ人の”後を追いかける”というサスペンス映画さながらの行動を取り、作品を制作する。アート界に熱い話題を巻き起こすセンセーショナルなアーティストだ。

「限局性激痛」展でも、作品のベースになっているのは、赤裸々な彼女の恋愛体験。フランスに住む愛する男性と旅先で落ち合う約束をしていたカルだが、その関係に突然終止符が打たれる。「どうしてこんな辛い思いをするのだろう」と苦しんだ彼女は、自身の心の傷を癒すために、彼と出会ってから破局するまでの日々を手紙や写真で「トレース」する作品を制作した。その物語は謎めいた部分もあるが、実際に自身の心の中にある恋の痕跡を辿ることで、胸の痛みが和らいでいく様を、魂を揺さぶる芸術作品に昇華させている。

こんな個人的なカルの作品が、世界的に人気があるのはなぜだろう。それは彼女の人生の痕跡を追いかける=「トレース」するうち、観る側の傷心が掘り起こされるから。切ない恋愛の思い出、さらにはこれまでの人生をもトレースされてしまい、もしかするとこれまでに感じたことのない衝撃を受けるかも。だがその浸透力こそが、カルの作品の最大の魅力なのだ。


広島市現代美術館外観
Photo:Jean-Baptiste Mondino

ソフィ・カル Sophie Calle

ソフィ・カル(1953-)は、仏ポンピドゥーセンターなど、世界中の美術館で個展を行っているアーティスト。写真やテキストを使い、自分や他人の人生から物語を紡ぎだす。自身がストリッパーやホテルのメイドとして働いた体験を元にした謎めいた作品も人気で、それに感銘を受けたポール・オースターは小説のモデルにするほど。ストレートな表現の裏にある繊細な感受性と類まれなる美意識に注目だ。


写真と刺繍によるテキストで構成された展示に高い美意識を感じて

限局性激痛
ソフィ カル — 限局性激痛
原美術館コレクションより 展示風景
c Sophie Calle/ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
Photo by Keizo Kioku

写真と文章で構成された作品の肝となるのは、フランス人らしい、素材に対する審美眼。翻訳された日本語は、新潟の工場で、ベルギーから取り寄せた麻布に刺繍された。微妙な糸色の変化にも注目して鑑賞したい。


別れを告げられたXデイまでをカウントダウンしたスタンプに注目

Exquisite Pain
Sophie Calle
Exquisite Pain, 1984-2003
c Sophie Calle/ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

1984年、奨学金を得て日本に滞在したカル。京都で撮影された写真にスタンプされた”54″は、失恋まであと54日の意味。フランスにいる恋人と破局した日を忘れない、切ない女性作家の恋心がわかるだろうか。

DATA


『ソフィ カル—限局性激痛』 原美術館コレクションより

会期:開催中〜 3月28日(木)
会場:原美術館(東京都品川区北品川4-7-25)
休館日:月曜日(2/11は開館)、2/12 開館時間:11〜17時
(水曜は20時まで。入館は閉館時刻の 30分前まで)
入館料:一般1100円ほか
お問い合わせ:原美術館
TEL:03-3445-0651



※表示価格は税抜き
[MEN’S EX 2019年3月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)

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