大人の言い訳は、相手への誠意でありやさしさであり愛です。何かとややこしくてままならない大人の日々ですが、適切な言い訳を繰り出して、自分を守りつつ周囲のストレスをできるだけ少なくしてしまいましょう。
講師
石原 壮一郎さん
1963年三重県生まれ。大人の美しさと可能性を追求するコラムニスト。1993年に『大人養成講座』でデビュー以来、日本の大人シーンを牽引している。近著に『本当に必要とされる最強マナー』『9割の会社はバカ』など。
友人の借金の頼みを断わりたい
いっしょに悩むことで同士だと思わせつつ、拒絶の意思を強く示す
「折り入って頼みが……」
こうきたら、十中八九は借金の申し込みです。古い付き合いのそこそこ大事な友人に居酒屋に誘われて、行ってみたら、冒頭のフレーズからの「二十万円貸してもらえないか」という話でした。
けっしてポンと出せる金額ではありません。差し迫った事情があるようですが、聞けば聞くほど、「貸したら返ってこなさそう」という予感が強まります。
「ものすごく大事な友人」なら、無理してでも融通するでしょうけど、「そこそこ大事な友人」というのが微妙なところ。貸さない方向で話を着地させつつ、無駄に逆恨みされないように、言い訳の力を駆使しましょう。
借金で人間関係が壊れるのを防ぐには、「貸すのではなく、何割かの金額をあげてしまおう」と言われています。しかし、何割かでも十二分に惜しいし、そんな偉そうな態度を取ったり取られたりして、今後の人間関係に影響が残らないわけがありません。
ここはひとまず、自分が借金を申し込まれていることを脇において、いっしょになって困り、いっしょに解決策を考えましょう。
「どうすればいいのかなあ。うーん、かなりの大金だよねー」 そう言いながら、頭を抱え込みます。さらに、「Aは子どもが受験で金がかかるって言ってたし、Bは『金がない』が口癖だし……」などと共通の友達の名前をあげて、順に可能性をつぶしていきます。何の解決にもなりませんが、いっしょに悩むことで連帯感を醸し出せるはず。その上で、
「俺も、年末の宝くじが当たっていれば(先週の競馬で大穴を当てていれば、どっかのお姫様と結婚していれば……)、ポーンと貸せるんだけどなあ」
と、現実味のない前提を付けて、それが実現していないことを言い訳にしつつ、「力になれなくて申し訳ない」と、無念さや悔しさをにじませましょう。
こうすれば、冷たい印象を与えることなく、貸す気はない強い決意を示すことができます。ま、そこの居酒屋はおごってあげるのが、せめてもの武士の情けかも。
言い訳の極意
あり得ない前提を持ち出して、 それが実現していないことを 理由にする— 言い訳はリアルの壁を 軽々と超えてしまう。
[MEN’S EX 2019年2月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)