近頃、エグゼクティブの間でますます話題のアート。知識を広げ、ビジネス会話を広げるためには、アートの「用語」にも精通しておきたい。
“マクロ”【ビジネス”ART”会話#11】
緻密なリサーチと独特の手法で「地表」を撮影し続ける写真家
「マクロ」はさまざまな分野で使われる言葉だが、アートの世界では、広く、かつ微細に物事を観察する視点を持つ作品を”マクロ的”と表現する。例えば東京スカイツリーの展望台から下を眺めると、小さな家並みが広がり、米粒のような大きさで人や車がうごめくのが見える。そんな普段の生活では味わえない、自分が巨人になって下界を見下ろすような感覚にさせてくれるのがマクロ的なアートだ。
写真家、松江泰治(1963-)は、高層ビルの立ち並ぶ都会から、岩肌が剥き出しになった山奥までを車で旅し、世界のあらゆる”地表”をマクロ的な視点で写真に収め、採集する。そんな地表の標本のような、彼独特の情感を一切排除したドライな作風は、もしかすると図鑑で見かける写真のようだと感じる人もいるかもしれない。実は、彼はこの奥行きのないフラットな画面作りのために、太陽の高さと撮影地の位置関係を調べ、影が生じない一瞬のシャッターチャンスをきっちりと計算している。周到なリサーチ、練られた撮影手法、そして松江の執念によって、どこまでも続く平面的なイメージは生まれているのだ。
松江泰治が「写真界の芥川賞」とも称される木村伊兵衛賞を受賞してから16年。ついに待望の国内初の大回顧展が開催される。ぜひこの機会に彼のマクロ的な視点を持つアートに触れ、世の中だけでなく自分自身も、ゆっくりと俯瞰してみてはいかがだろう。
切り取ることで思いがけない人間ドラマが垣間見えてしまう不思議
たまたま大判写真に写り込んでいた「人」をトリミングした作品は、「地表」を撮影したシリーズから派生したもの。切り取られたプリント画面を見ていると、頭のなかで人間ドラマの妄想が勝手に膨らんでしまう。
現像したままだったモノクロフィルムをデジタルリマスターで再現
1983年、20歳のときに寄った軍艦島(端島)で撮影したフィルムを35年の年月を経て、初めてプリントした作品。当時はモノクロームの巨匠、森山大道のもとに通い、「光と影」について研究し、撮影の実験を重ねていた。
DATA
『松江泰治 地名事典 | gazetteer』 会期:開催中〜2019年2/24(日) 会場:広島市現代美術館(広島県広島市南区比治山公園 1-1) 開館時間:10時〜17時(入館は閉館時間の30分前まで) 月曜休館(ただし1/14、2/11を除く)、1/15(火)、2/12(火) 料金:一般 1000 円ほか お問い合わせ:広島市現代美術館 TEL:082-264-1121
全国でも屈指の現代美術館コレクション展も楽しんで
名匠・黒川紀章の建築で知られる広島市現代美術館は、現代アートを専門に扱う初の公立美術館として、30年前にオープン。見晴らしのよい比治山公園内にある。現代美術を語る上で見逃せない、アンディ・ウォーホルなど収蔵作品もハイクラス。現在開催中のコレクションによる特集「顔のような」展(〜2/3)では、アルベルト・ジャコメッティや岡本太郎など国内外の著名アーティストによる「顔」をテーマにした作品、40点が並ぶ。20世紀の現代アートの名作ばかりなのでお見逃しなく。
※表示価格は税抜き
[MEN’S EX 2019年2月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)